遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

ドキュメンタリー「ヨークシャー・リッパー」(要注意:頓馬な男が多く登場)

Netflixで「ヨークシャー・リッパー」という2022年製作のドキュメンタリーを見ました。

ヨークシャー・リッパーとは、ヨークシャーの切り裂き魔といったような意味で、1975年7月から5年間に渡り、13人を殺害、重軽傷7人を出したイギリスのヨークシャー地方で起きた事件の犯人逮捕までの全容を、当時の関係者(被害者、刑事、ジャーナリストなど)の証言などとともに4回シリーズでまとめたものでした。

被害者はすべて女性で、その多くは売春婦でしたが、一般人も混じっていてそのうち一命をとりとめた幾人かはこのドキュメンタリーの証言者としても登場します。

犯人から送られた警察を挑発する録音テープの「地方なまり」で出身地や居住地を特定できたとして、大量動員による聞き込み捜査などが展開されますが、捜査は進展しないまま、連続殺人が次々と起こります。

ヨークシャーの女性たちは、夜間に一人で出歩かないように警察から要請されますが、5年にもわたる恐怖から解放されない女性たちはその怒りからデモを行います。「男こそ夜に出歩くな」というデモ隊の言い分はまったくもって的を射たシュプレヒコールでありました。

当時、女性が標的にされるこの事件にかかわりたくてジャーナリストになった女性記者が証言します。
・被害者はすべて女性なのに、女性の捜査官は一人もいない。それで捜査が上手くいくとは考えられなかった。
・犯人は売春婦を狙っていると決めつけているが、そもそも深夜に独り歩きしている女性がたまたま売春婦だっただけではないのか。

ドキュメンタリーはこのあたりから、正義の味方であるはずの捜査陣が、頓馬なおじさん集団に見えてきます。

結局、若い警官二人が偶然に犯人を逮捕できたのですが、男ばかりの無能な捜査体制はいったい何だったのかとこのドキュメンタリーはいま振り返ります。

当時の記録映像には、捜査陣や犯罪専門家が登場し捜査の方向性を示唆しますが、偶然に犯人を逮捕できた後に彼らの空振り捜査を振り返ってみますと、ど真ん中の直球しかバットに当たらないスイングをしているようでした。事件後、彼らは責任追及されますが、そのあたりは今の日本とは少し違うところではあります。

当時すでに成人だった私ですが、この事件を今まで知りませんでした。半世紀ほど前の英国の女性は虐げられていて貧しくて、犯人の母親も父親から暴力を受けていたようでしたが、古今東西のさまざまなドキュメンタリーや戦争や事件を見るにつけ、人類の男というのはほんとに変わらない生き物だなと思ったしだいです。