遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

直木賞作家小川哲の「君のクイズ」を読みました!

君のクイズ    小川 哲 (著)   朝日新聞出版

今年初め「地図と拳」で直木賞を受賞した小川哲の受賞前の小説「君のクイズ」を読了(以下、ネタバレなし)。

とあるクイズ番組に出演した三島はあと一歩のところで優勝賞金1千万円を手にできなかった。三島を制して優勝した本庄は、最終問題が読み上げられる直前に回答ボタンを押し正解を答えてしまった。

問題を聴かないうちに早押しして回答できるはずがない、番組側のヤラセがあったのでは?と視聴者は騒ぎ、クイズに負けた三島もその真相を探ることになる。

クイズ番組がベースになった謎解きミステリ小説で、私の大好物のクイズとミステリが合体した小説だからさぞや楽しめたかと言うとそうでもなくて、最後の謎解きは「なるほど。納得!」だったのだが、本庄の謎の神業回答の真相を謎解きしていく過程がうんちく話やクイズ番組の裏話などが多くて冗長で新しくなくて、私としてはさほど面白くなかった。

クイズの敗者の三島は魅力的で、彼の生活場面などは面白かったのだけど、勝者の本庄がつまらない人間で残念だった。

でも、本庄のような「いまどきの男」を描きたくて、著者は本作を書いたのだと思うし、その狙いに賛同できるのだけど、もうちょっと違うアプローチ方法や帰結がなかっただろうか、クイズ番組のように心躍る要素が少し足りなかった。

牧野富太郎の伝記と、藤井聡太の強さの分析本を読んだ後だったこともあるのか、熱情や心の澱の浄化作用を感じないままの読了となった。

うちの図書館の本書の待ち行列は200人(半年以上の待ち時間)くらいになっているが、直木賞作家のライトな小説ということで高い人気なんだろうと思うし、たぶん期待を裏切らないと思う。

映画「スラムドッグ$ミリオネア」的なクイズの回答に関連する楽しい謎解き要素もちりばめられていて、クイズやミステリとなじみが薄い読者の方がかえって楽しめるかもしれない。

同じ著者の「地図と拳」は、ページ数が600頁もあって(本書の3倍!)読了できないかもしれないが、高い山は昇り甲斐があるかもしれない。期待してみよう。