おいしいごはんが食べられますように 高瀬 隼子 (著) 講談社
「二谷さん、わたしと一緒に、芦川さんにいじわるしませんか」
心をざわつかせる、仕事+食べもの+恋愛小説。
職場でそこそこうまくやっている二谷と、皆が守りたくなる存在で料理上手な芦川と、仕事ができてがんばり屋の押尾。
ままならない微妙な人間関係を「食べること」を通して描く傑作。
2022年の上半期第167回芥川賞の高瀬隼子著「おいしいごはんが食べられますように」を読了。
小さなオフィスに勤める人たちを描いた小説で、二谷と芦川と押尾が主な主人公。皆20代後半で、二谷が男。
二谷の心象を描いた三人称の章と、押尾が一人称で語る章がスピード感をもって交互に現れて、日替わりメニューのように飽きさせない構成。
構成もさることながら、どこのオフィスにも出現しているあるある感満載の登場人物たちが、巧みに描かれていて飽きさせない。
読んでいて、昔、職場にいたA子を、彼女についてのまた聞きのエピソードを思い出した。
そのエピソードというのが、B子さんが買ってきて職場で皆に配っていたお土産のお菓子かまんじゅうを、A子は即座にあからさまに足元のゴミ箱に捨てたというもの。
A子とB子さんの関係を知らない私は、A子の性格を疑ってしまったのだが、A子はその後、社内結婚して退職した。B子さんが誰だったか忘れてしまったが、いずれにせよ嫌なことを思い出してしまった。
この小説の読後感も、ああスッキリしたというさわやかさはない。そもそも芥川賞にそんなさわやかさはなくて、闇や毒やがよく書かれているといったたぐいのものが多くて、私好みでもある。
「SPY+FAMILY」のアーニャのように他人の心を読めたとしたら、人間関係は台無しになり1日でこの世は嫌になるだろうが、かといって、摩擦を繰り返しながらも空気を読めないふりをして好きに生きるのも難しい。とかく他人というのは面倒臭い。
二谷の未来が少し垣間見えるエンディングで、へーそうなるのかぁ?なるほど~と、不思議で複雑な思いで余韻を残すのだった。
本作の登場人物は、自分にも思い当たる部分を少しずつ持った登場人物ばかりで、嫌悪感もするけど鋭いところを突いているなと感心もして、不思議な現代社会を生きるためのワクチン的存在になったりするのが、この類の小説だとも思う。
副作用は少ないと思うので、ぜひ読んでいただきたい。
私の職場にいたほとんど会話もしたことのなかったまんじゅうポイ捨てA子のことを、もう少し知ってみたかったと思い出す。
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