首里の馬 高山 羽根子 新潮社
第163回芥川賞(2020年上半期)の受賞作「首里の馬」を読む。
沖縄に暮らす未名子と、彼女と繋がる人たちと1頭の宮古馬の物語。
物語と言っても、起承転結がはっきりしているわけではなく、主人公を中心とした輪郭がはっきりしない図形のようなエピソードが重なり合っている、感じ。それがとてもいい感じ。
未名子は不登校だった中学生の頃から、老いた女性の学者が所有する私的な資料館で資料整理を自主的にずっと手伝っている。外から見るとアジトに潜伏する工作員のように見えるのだが、平和的な営み、沖縄ならではの資料を系統だてて整理し続けている。
その一方で、彼女は不定期にネットを使って特定の人物にクイズを出題するという一風変わったバイトに従事している。事務的にクイズを1問出題し、回答者が答えた後は自由な雑談を楽しめる。
そして、台風の後に自宅の裏庭に迷い込んできた1頭の馬と遭遇する。
著者の分身たちなのだろうが、面白い設定の登場人物たちは巧みに言葉が使えていてじっくり読ませてくれる。そして読み手は、私もそうだったように、個人的なエピソードを思い出しにページを離れてどこかに行ったりして時々迷い子になってしまう。
悲惨な歴史ある沖縄で生活する人たち、未名子と未名子の祖母や母親に相当する年齢の資料館の学者とその娘。また、バイトで繋がっているどこかはるか遠くにいるクイズの解答者。そして、迷い込んできた馬までもが、みな孤独で閉塞感にさいなまれている。にも拘らず、台風一過の島の沖縄のように穏やかでのどかな諧調が作品全体に漂っていて、救われるのだった。
年の瀬を控えて、いい作品に出会えて幸せだった。