遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

心に染み入る河崎秋子の「土に贖う」を読みました

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 土に贖う 河崎 秋子 (著) 集英社

 

北海道を舞台にした短編小説「土に贖(あがな)う」のご紹介。著者は1979年北海道生まれの河崎秋子。

戦前戦後の北海道には、さまざまな産業があったと知る。 最盛期にはそのどれもが一大産業をなしていた。

札幌の養蚕(絹)、北見のハッカ(油)、根室のミンク(毛皮)、渡島の大島のオオミズナギドリ(羽毛)、江別のブルトン(改良農耕馬)、野幌のレンガ(建築)などがそれにあたる。
それら産業に従事した、貧しくて美しい人たちの静かで悲しくてたくましい物語の集積が本書だ。

気候風土や寒さが厳しいだけでなく、産業構造の変化や終戦によって時代に流された北海道の家族の物語がここにある。

産業や暮らしの史実や真実のディテールが綿密で、良質のドキュメンタリー。北の家族を描いた創作部分は、端正な語彙が豊富で質実な文体だ。初めて読む河崎、40歳の作家にしては良い意味で老獪な味がする。

観光レジャー産業や、米や野菜を主とした農業や、牧畜や酪農とは一線を画した、「北海道地上版・蟹工船」のような切り口が、ノスタルジックなのに新鮮だ。

次に北海道を旅する時には、本書で出会った人たちをきっと思い出すだろう。

本年最後の充実した読書であった。

 

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