遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

とと姉ちゃんたちの挑戦/暮しの手帖

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NHK朝ドラ「とと姉ちゃん」の主人公は、花森安治とともに「暮しの手帖」を創った大橋鎭子がモデルであります。

私が「暮しの手帖」をはじめて手に取ったのが、学生時代に結石で入院していた時だったと記憶している。病院にこの雑誌のバックナンバーがずらっとそろっていた。「平凡パンチ」も「週刊プレイボーイ」もなかったので、「暮しの手帖」をぺらぺらと見ていた。

それが、思いのほか面白かった。毎号掲載されてた「商品比較テスト」がすこぶる面白かった。ある商品を徹底比較して「買うならこの商品」と結論までズバッと出すのである。後にベストセラーになった「買ってはいけない」の反対で「買うならこれ」という商品を教えてくれたのだ。

ブログで、「暮しの手帖」の比較テストレポートをまとめてくれている人がいる

それによる比較テストの実態は以下のようなものであった。
◆「自動トースター」(1969年)のテストでは、実際にトーストを4万3088枚焼いて調査。1枚焼くのに2分としても延べ1436時間に及ぶテストである。
◆かまぼこなどの練りもの、各社の製品を写真付きで添加物の多さにより○、×、××、×××のランク分けをする。
◆サインペンはどれがよいか、布に各社のマーカーペンで書き込みをし、10回の洗濯をしたらどうなったかを比較。
◆絨毯は、純毛とアクリルとレーヨンの11種類を、研究所内に敷いて3年かけて40万歩以上実際にその上を歩いてテストしていた。
◆「買物車 shopping cart をテストする」としてショッピングカート11種類を2台づつ、10kgの荷物を載せて50kmの走行テスト
◆ベビーカーのテスト「赤ちゃんのためにも お母さんのために」、重りを乗せたベビーカーを男女複数名が300km押して調査。
◆テフロン加工のフライパンを350回煎り卵を作って、500回ホットケーキを作ってテスト。
◆ミシンは延べ2kmの布を縫う、アイロンは20kmの布にあてる。
◆掃除機は数度にわたり取り上げているにもかかわらずおおむね100kmはかけてテスト。トイレブラシはトイレを1万5千回こすっていた。
◆「玉子焼ききをテストする」は7種類で玉子焼きを50回ずつを焼いてテスト。
◆「オーブントースターをテストする」。トースト以外の料理もためしつつもちろんトーストは数を焼く。1800枚
◆クオーツ時計は、4銘柄8台を調査開始日に写真撮影、そのまま放っておいて366日後に撮影し誤差を調査。
◆ズック靴の耐久テスト。小学5年生の男女300人に、10か月毎日履いてもらってその様子をお母さんが日々つぶさに記録。

このような気の遠くなるようなテストを、隔月発行の「暮しの手帖」は延々と実施していたのである。(その商品の一部を記事の最後に載せている。)
基本は、テスト期間の長さにかかわらず、経過と結論を一気に掲載するので、その編集方針とテスト計画は大変だったと思われる。(平均して毎号3つの商品を比較していたようだ。)

先だって、オードリーの春日が数回の悪ふざけ耐久テストで壊した椅子は、機械仕掛けの振動装置で300万回揺らして壊れなかった椅子だったが、「暮らしの手帖」は多くの人間が延々と実際に使ってテストをしていた。それが花森安治たちのこだわりだったという。

自動食器洗い機が出たばかりの頃の花森の怒りの記事(抜粋)。
『愚劣な食器洗い機』主婦をあまく見てはいけない(花森安治)1968年
○○といい、□□といい、形だけ見ればひとかどの大企業である。その企業に、もはや一片の、技術者としての誇りも意地もないのか。売れるものは何でも売る、今はもう、それだけしかないのだろうか。
君たちのハデな宣伝につられて、この「食器洗い機」を買った人たちの気持ちを考えて見たまえ。この人たちをモルモットにして、君たちは来年早く新型を出す。(略)
ぼくたちはごめんだ。
なけなしのゼニを出してまで、君たちのモルモットには、もうならない。
あまく見ないでほしい。

メーカーは、「暮しの手帖」の比較テストに勝ち残る製品を作ることを心がけるだろうから、私たち消費者は、とと姉ちゃんたちの挑戦の恩恵を受けていたのである。

暮しの手帖」は今も発行を続けている(!)が、コストと人手がかかることなどを理由に、2007年以降商品テストを中止した。彼らは、スポンサー広告を一切排して、誰にも圧力を受けない態勢で商品テストを続けていた。ジャーナリズム誌ではなかったが、編集者の中立精神の鑑のような心意気の、実に立派な生活誌であった。

【参考】暮しの手帖」が1968年~1980年までにくらべた商品の一部
全自動せんたく機、ビスケット、食器洗い機、水切りかご、浴用ブラシ、電気掃除機、アパート、電気釜、しょう油つぎ、こども下着、2ドア式電気冷蔵庫、消しゴム、安いアイス、電池かみそり、ガス天火、ホットカーラー、レトルトカレー、毛布、体温計、ごはんの缶詰、ヤカン、電器ジャー、国語辞典、樹脂加工のフライパン、ノート、扇風機、インスタントラーメン、サインペン、ジューサー・ミキサー、スパゲチ、霧吹き、二層式脱水洗濯機、鰹節削り器、小型電気掃除機、床タイル用ワックス、チョコレート、蛍光灯、石鹸、ルームクーラー、ジュース、シャープペンシル、スチームアイロン、ガスヒーター、玉子焼き機、柔軟剤、ガス湯沸器、足踏み式くず入れ、自動センタク機、乾電池、2ドア式冷凍冷蔵庫、壁付けカン切り、換気扇、スライド映写機、オーブントースター、Tシャツ、国産より安い目覚まし時計、電気ごたつ、ホットプレート、節電型電気掃除機、湯たんぽ、冷凍エビ、ガス炊飯器、合繊じゅうたん、ショッピングカーと、こどもの運動靴、大根おろし器、ゴムベラ、電子レンジ、消火用三角バケツ、スーパーのTシャツ、ごはんの缶詰、家庭用電気もちつき機、金ざる、大型電気冷蔵庫、風呂洗い専用洗剤、ランチョンミート、8ミリ映写機、60分用タイマー、野菜ジュース、洗濯のり、氷かき器、石けん、安い掃除機、タオルかけ、焼肉のタレ、トイレブラシ、石油ストーブ、ウスターソース、安い外国製万年筆、保温式電気炊飯器、石けん入れ、ステンレスのヤカン、グリルつきガステーブル、缶詰のコーンスープ、フィックスルーパーの靴、充電式電池、ひげそり石けん、ワイシャツ、掃除機、弁当、ベビーカー、補聴器、麻婆豆腐の素、ストロボ、卓上コンロをテストする、加湿器、密封陽気、スチームアイロン、大型の電気冷蔵庫、油こし器、ジュース、スーパーのとうふ、小型バカリ、アイスキャンデーの型いろいろ、ストロボ付き38ミリカメラ、オーブントースター、FF式石油温風ヒーター、靴下、ランチジャー、家庭用消火器、水晶時計、缶詰の野菜ポタージュ、肉ひき機、充電式 電気かみそり、ふかし鍋、肥後守、ズボンプレッサー、つゆの素、電気釜、ホームサイズのアイスクリーム、人工芝、三角コーナー、圧力鍋、こどもの肌着、トイレットペーパーホルダー、石油ファンヒーターをテストする、筆ペン、ワインのコルク抜き、石油温風ファンヒーター、巻尺、台ぶきん、ホットプレート、おむつカバー、水切りかご、温湿度計、冷凍コロッケ、10万円以下のフリーアーム型ミシン、洗える背広、1キロワットのヘアードライヤー、粉ふるい、氷を使わない氷枕、ねりごま、子供用の小さい便座、新型電子ジャー炊飯器、スーツケース、背負子ふうのおんぶ道具、窓拭き用のゴムべら、冷凍シュウマイ