遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

彼岸花/小津安二郎

イメージ 1

原作 里見弴
出演者
桜むつ子長岡輝子、十朱久雄
配給 松竹 公開 1958年9月7日  上映時間 118分

NHKBSでデジタルリマスター版の「彼岸花」鑑賞。1958年公開。
本年37本目の映画鑑賞。うち日本映画は19本。黒澤映画を中心に今年はよく日本映画を見た年になった。

上記の画像(左から、有馬稲子山本富士子久我美子)はモノクロームだが、本作は小津安二郎の初のカラー作品だった。冒頭の東京駅のレンガ色はとてもきれいな良い発色で印象的であった。

小津作品には、葬式や結婚式シーンがよく出てくる。本作も結婚式から始まる。
主人公の会社重役佐分利信が、親友中村伸郎のお嬢さんの結婚式で「今どきは熱烈な恋愛結婚が主流で、うらやましい限りです」などとスピーチをする。そのくせ、愛娘の有馬稲子と「結婚を前提に交際しています」と訪ねてきた恋人佐田啓二との結婚に大反対をする。

佐分利信の家族、妻田中絹代、長女有馬稲子、次女桑野みゆきの一家を中心に、結婚をめぐる父と娘の軋轢(あつれき)が描かれる。
佐分利の親友笠智衆も、娘久我美子が駆け落ち同然に恋人渡辺文雄を追って家を出ていったままで、心配で仕方がない。

二組の父と娘が結婚問題で心を痛めている。といった静かなストーリーが核となる作品。結局、娘たちは自分たちの意志を通すのであるが、当時としてはしっかり者女優の代表格というべき有馬稲子久我美子が、自分たちと等身大の娘を演じる。

余談だが、有馬と久我は岸恵子と3人で「にんじんくらぶ」というプロダクションを設立し、映画会社が専属俳優・女優を他社の作品に出させない協定(五社協定)に反旗を翻していた同志であった。

また、佐分利一家に絡むのが、知り合いなのか親戚なのか京都の母浪花千栄子と娘山本富士子。この母と娘二人の女優は関西の出身で、太陽のように明るくて華やかで達者で見事であった。ことに、大映から小津が呼んできた山本富士子は、当時27歳とは思えぬ艶やかさで、結婚より母との生活を優先する、これまたしっかり娘を演じている。小津は大映の至宝山本富士子の借りを、大映での監督作品で返したという。

娘は父親のものでも母親のものでもない、幸せになるために好きに歩めばよいのであろう。