遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

東京物語/小津安二郎

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    中村伸郎三宅邦子東野英治郎十朱久雄、長岡輝子
公開 1953年11月3日 上映時間 136分

NHKがBSで「原節子さんをしのんで」として「東京物語」を放送した。録画して、きちんと襟を正して鑑賞。

年老いた夫婦が尾道から、自分たちの子供たちを頼って上京し、子どもたちファミリーと交流し、また尾道に帰っていく。短いひと月足らずの物語。

老いた夫婦が笠智衆と東山千恵子。子が、山村総(長男:東京在住の町医者)、杉村春子(長女:東京で美容室開業)、大坂志郎(三男:大阪の国鉄職員)、香川京子(次女:尾道の教師)。そして、東京に住む戦死した次男の妻を原節子が演じる。

山村総も杉村春子も、家業に忙しくて、上京した両親の相手をしてやれない。その役を原節子に任せてしまう。原節子は会社を休んで、東京見物に両親を案内する。アパートに呼んで食事まで提供する。(画像はそのシーン。ただし、このような3人がカメラ目線のシーンはなく、これは宣伝用スチール写真。)

両親に冷たい長男と長女と三男。映画の最後ちかく末っ子の香川京子は、兄や姉があまりにも冷たいと、死んだ兄の嫁である原節子に打ち明け、憤りを隠さない。

ほとんどの観客は、とくに杉村春子には腹立たしく感じるだろう。実の両親のことより、自分の仕事や生活の方が大切なのだ。杉村春子ならではの名演で見事だ。余談だが、彼女の実年齢は父親役の笠智衆と2歳違いだった。
杉村が演じるような娘は、いつの時代でも存在する。でも、生きていくのにみな必死なのよと、原節子香川京子をたしなめるのである。

私たちは親から生まれて、世で最も近い距離で親と過ごし、やがてその元を離れて自立していく。切っても切れない安心感のある存在でもあり、逆に心配でもあり、憎悪の対象にもなる近い存在なのである。兄弟や子どもよりも近い距離間にあろう。私たちのことを何でもお見通しで、何でも許してくれる菩薩のような存在が親なのかとも思う。

この映画が、製作されたころから変わらずに、いやそれ以上にいまも人々の心を打つのはなぜなのだろうか。瀬戸内の穏やかな海のように静かな年老いた両親と、彼らの子どもたち(原節子も含む)ファミリーに、私たちは何を見出すのだろうか。
大切なのは、ほかでもない自分なのだと素直に思えるのだろうか。

京子(香川)「いやーね、世の中って」
紀子(原) 「そう、嫌なことばっかり」

本作のストーリーはほとんど書かなかったので、未見のお方は60年前から届いた手紙を読むように、「東京物語」をぜひご覧になって、ご自愛ください。