遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

小早川家の秋/小津安二郎

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監督 小津安二郎(東京)
脚本 野田高梧(北海道)、小津安二郎
音楽 黛敏郎(神奈川)
撮影 中井朝一(兵庫)
出演者
原節子(神奈川)
新珠三千代(奈良)
小林桂樹(群馬)
加東大介(東京)
団令子(京都)
白川由美(東京)
山茶花究(大阪)
藤木悠(東京)
杉村春子(広島)
望月優子(神奈川)
浪花千栄子(大阪)
笠智衆(熊本)
島津雅彦(鹿児島)
森繁久彌(大阪)
中村鴈治郎(大阪)
配給 東宝  公開  1961年10月29日  上映時間 103分

小津安二郎の「小早川家の秋」を、NHKBSで録画鑑賞。

松竹の小津安二郎東宝で撮った本作は、原節子東宝から借りて松竹で名作ばかり作っている小津の、返礼作品である。本作は、京都と大阪が舞台の作品で、出演陣は関西に縁のある人たちが主体とはいえ(出演者名の後に出身地を記した)、各人のセリフである京都弁や大阪弁は違和感がなく、及第点がつけられる。

ただし、原節子だけは関西弁を話さない設定で、なるほど原節子のイメージは、訛らないのである。成瀬己喜男の「めし」は大阪が舞台だったが、原は東京出身の設定だったし、黒澤明の「わが青春に悔なし」は京都が舞台だったが、原は標準語の役であった。

本作は、京都は伏見と思しき造り酒屋の小早川(こはやがわ)家の、夏から秋にかけての短い物語。子役の島津雅彦まで含めて、小津組の役者が揃って、小津のメガホンで京都郊外の物語を作り上げる。

造り酒屋の、今は隠居の身である大旦那が中村鴈治郎(二代目、中村玉緒の父)。
その娘が新珠美千代で、婿養子の小林桂樹と造り酒屋のあとを継いでいる。新珠の妹が、嫁入り前の司葉子で、亡くなった長男の嫁が原節子である。

この一家のエピソード、未亡人原の画策されたお見合いや、末娘司の乗り気でない縁談話や、鴈治郎の昔の愛人(浪花千栄子)との再会と交流とそれをとがめる長女新珠の心の揺れなどを描いた作品。原や司は立っているだけで美しいが、中村鴈治郎新珠三千代小林桂樹の掛け合い芝居が見ものである。浪花千栄子杉村春子の個性ある演技も、相変わらず達者なもので見事だ。

カラーになっても、東宝で撮っても、カメラマンが変わっても(黒澤組の中井朝一が担当)、終始あのローアングルからの安定映像が続く。配役の動きや立ち位置や歩き方など、舞台の前衛的な舞踏のような印象で、そこまで様式美を追求するかと面白くはないが印象深い。むろん、見るに耐える作品である。

また、祇園一力の朱の壁や、伏見の酒蔵や酒樽や、嵐山の川面を行くボートや、向日町の競輪場の木製スタンドや、木津川に架かる流れ橋や、焼き場の煙突などのさまざまなオブジェも自己主張してこの様式美に貢献している。

東宝は、小津に及第点をつけてくれたのだろうか。