遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

初夏の小路/岸田劉生

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「初夏の小路」 岸田劉生 1917年 油彩 45×38cm 下関市立美術館蔵

岸田劉生(きしだ りゅうせい、1891年 - 1929年)。

1979年(昭和54年)、京都国立近代美術館で「没後50年 岸田劉生展」が開催され25歳の私も足を運んだ。会期は6月5日から7月15日で、入場者は12万5千人を数え大成功をおさめた展覧会だったと言える。岸田劉生の作品は、「麗子像」の連作しか知らなかった私は、彼の38年間の生涯に残した作品に圧倒された記憶がある。

さまざまなバリエーションの麗子像や岸田の自画像や写実の端正な静物画などが目を引いたが、とりわけ私が印象的だったのは、明るい日差しの坂道を原色でビビッドに描いた「道路と土手と塀(切通しの写生)」(1915)だった。

今般の「二科100年展」では第4回二科展に出品されたご覧の「初夏の小路」が出品された。「切通しの写生」より2年ほど後の作品だが、作風は印象派の雰囲気を帯びている。岸田が傾倒したセザンヌの作品を思い起こす方も少なくないだろう。
持病のため、アトリエでの作家活動を余儀なくされた岸田だったが、屋外での光のとらえ方は天才的なものがあると感じる。

また、1917年の第4回二科展に出品された「静物(湯呑と茶碗と林檎三つ)」も今回出展された。こちらの静物画はルネサンス絵画のように写実的で、同じ作家の同時期の作品とは思えない。岸田は、印象派からの影響を離れて、古典的な写実的な画風に変遷していったという。1917年はその過渡期だったのかもしれない。 

岸田はパリに憧れたままかの地を訪れることなくこの世を去った。短い生涯だったが遺した傑作は数多く、間違いなく日本の美術界の巨人である。

「伝説の洋画家たち 二科100年展」 
大阪展 11月1日まで  大阪市立美術館で開催中
福岡展 11月17日~12月27日まで 石橋美術館(久留米市)で開催