遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

モーツァルト:ピアノソナタ8&11/ピリス

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今日ご紹介のクラシックCDは、マリア・ジョアン・ピリス(1944年リスボン生まれ)演奏のモーツァルト(1756-1791)のピアノソナタ4曲。

収録曲は収録順に、
ピアノ・ソナタ イ短調 K.310[第8番]、ヘ長調 K.332[第12番] 、イ長調 K.331[第11番]「トルコ行進曲付き」、ハ長調 K.545[第15番]の4曲。録音は1989年と90年で、ピリス45~6歳時のもの。

今年の夏の初めは、ピリスとアバドウィーンフィルモーツァルトのピアノ協奏曲でさわやかに暮らし、そのあとはこのピアノソナタで夏をスイスイ乗り切った。

音楽で、楽曲の基本的テンポは崩さずに個々の音符の長さを変化させて演奏することを「テンポ・ルバート」という。ピアノ演奏で例えると、左手はきっちりリズムを刻んだ演奏をしつつ、右手はほんのわずかに音を長くしたり短くして変化をつけるような演奏のことを言う。一般的にはルバートと言われているようだ。

このアルバムの、イ長調 K.331「トルコ行進曲付き」でのルバートはしっとりと女性的で魅力にあふれる。わずかなテンポの揺らぎが、聴くものを恍惚とさせる。ピリスのルバートは、やり過ぎて洒脱な域を出ないところがかっこよくて美しい。天使のような一枚である。

このモーツァルト4曲のピアノ・ソナタは、それぞれの3楽章12の曲はいつどれを聞いても新鮮できらびやかでため息が出る。どの曲も、作曲者譲りの「天才肌の持ち主」なのである。それでいてみな個性豊かでもある。

音楽之友社の「新編 名曲名盤300 ベストディスクはこれだ! 」では、モーツアルトのピアノ・ソナタは、5曲紹介されているが、ピリスの演奏したアルバムがそのうち4曲(10番・11番・14番・15番)が1位で、8番が2位にランクされている。つまり、現代で考えうる最もいい解釈とすぐれた演奏がこの1枚に凝縮されているようだ。

ピレスのソナタは全集アルバムに集約されていて、この一枚は廃盤になっているようで、私はアマゾンで250円の中古CDを買い求めた。
私の所有する内田光子の8番・11番・14番・15番のCDや、グレン・グールドの“悪魔のような”8番・10番・11番・12番・13番・15番のCDでも楽しめる。

この秋は、ピリスのショパンノクターン集を楽しむことにしよう。