遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

マルホランド・ドライブ/デヴィッド・リンチ

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日本公開 2002年2月16日   上映時間 145分

夜のマルホランドドライブで自動車事故が起こる。事故現場から生き延びた女性(ローラ・ハリング)は、助けを求めにハリウッドまでたどり着く。女性が偶然潜り込んだ家で、女優志望のベティ(ナオミ・ワッツ)に見つかる。事故で記憶喪失になった黒髪の女性は、部屋に貼られていた女優リタ・ヘイワースのポスターを見て、反射的に「リタ」と名乗った。彼女はベティに自分が事故で記憶喪失になっていると打ち明ける。リタのバッグには大金と青い鍵。ベティはリタの失った記憶を取り戻すことに協力する。

ここまではストーリ展開も素直だったが、少しずつ他の登場人物のエピソードがスクランブルに挿入され、そのうち時制も混乱してくるようになる。いくつもの短編映画が同時進行するようなストーリー展開は、よくある手法なのだが、それらが収束して収まるところに収まらないのが残念であった。

残念なのは私の感性なのだが、どうもストーリーはしっくりしなかった。ただ、パッチワークのひとつ一つはとても吟味されて鍛錬されて、芸術的に仕上がっていて見事である。ハリウッドのスタジオやプール付きのモダンな大邸宅や瀟洒な古いアパートメントや場末の薄汚いホテルや西海岸を象徴するような大衆レストランなどで作製されたパッチワークは、これぞ映画と言えるすぐれものである。

また、個性的な人物が適材適所にちりばめられており、気のきいたセリフをしゃべってくれる。とりわけ、ナオミ・ワッツは大熱演で、一点の曇りもないさわやかな女性だった前半とはうって変わって、後半は影のある神秘的な女性に変身する。相手役のローラ・ハリングも貫録十分であった。

借りてきたDVDなので、もう一回見れば思わせぶりのシーンの謎がすっきりして、作品をもう少し自分に引き寄せられるだろうが、さらに145分(不思議と短く感じるのだが)を費やしたくはない。これはこれで十分印象的な作品だった。