遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

ナイロビの蜂/フェルナンド・メイレレス

イメージ 1

ナイロビの蜂 The Constant Gardener
脚本 ジェフリー・ケイン
製作 サイモン・チャニング・ウィリアムス
日本公開  2006年5月13日
上映時間 128分


ナイロビの蜂」に先んじて、1994年に起きたルワンダでのフツ族によるツチ族の大虐殺(100万人以上とも言われる)を舞台にした映画「ホテル・ルワンダ」を鑑賞。あってはならない大虐殺を描いていて、その素材や人道的見地は立派。
しかし、演出がまずいのか役者が下手なのかその両方なのか、登場人物の描き方が希薄で、映画としては未熟で退屈だった。

まず作品として成り立っていなければ、映画(記録映画は別)で人道的なことを表現するには無理があると思う。

たとえばだが、「シンドラーのリスト」で実在の狂気のナチの士官を演じたレイフ・ファインズのはらわたの煮え返るような凄い演技や、スピルバーグ監督の演出にはパワーがみなぎっていた。巨悪や大嘘や差別を暴露し、正義や平和な暮らしや悲惨な戦いを描いたとしても、映画としての息使いのようなものがなければ退屈なのである。

このたび、レイフ・ファインズが主演した「ナイロビの蜂」を鑑賞。共演がレイチェル・ワイズ(この作品で2005年のアカデミー助演女優賞受賞)。
原作は「寒い国から帰ってきたスパイ」のジョン・ル・カレ(1931-)。

ケニアのナイロビに駐在しているイギリス人外交官のジャスティン・クエイル(レイフ・ファインズ)と、その妻テッサ(レイチェル・ワイズ)が主人公で、テッサには実在のモデルが存在するという。

ル・カレの原作の原題は「The Constant Gardener」で、ガーデニングが趣味のまじめなジャスティンのことをあらわしている。そジャスティンに接近してきて妻になるのがテッサ。彼女は人道的な活動家で、外交官と妻としてパーティに出ても、巨悪の要人と思しき人物には敢然とした「挨拶」で立ち向かう。単なる、まじめなガーデナーの妻ではない。しかし、ジャスティンは妻の日頃の活動について、自分の庭ほどの関心も持っていなかった。

テッサは、ケニアのスラムに住む人たちを利用しようとする巨悪の真相を突き止めようと行動する。それが引き金となり、このナイロビの外交官夫婦に、大きな厄災が降りかかる。

ル・カレの原作にどれくらいの真実が含まれているのかわからないが、白人たちのアフリカンへの差別意識がはっきり見て取れる。そればかりか、アフリカ人の中にも特権階級がいてスラムのアフリカンを利用する。
私企業のために効率的な利潤を追求するために、国の役人は私腹を肥やすために、貧しく無知に置かれたままの人たちの命が犠牲になる。

カメラは、延々と続くケニヤのスラムの赤茶けたトタン屋根を映し出す。その中を、テッサは調査活動のために歩き回る。そのシーンが、白や黒の肌をした特権階級のディナーのシーンと対比して示される。
ガーデナーから真相の追及者に変身したジャスティンの、心象風景にも似た回想シーンがモンタージュ手法で披露される。

アフリカの大地はあくまでも美しい。
原作と演出と脚本と演技と映像と音楽が、きちんと息をしているのである。