選挙活動のひとつに「桃太郎」というのがある。候補者を先頭に、党名や候補者名の入った幟やプラカードを持って、運動員やウグイス嬢などが街頭を練り歩く選挙活動のことを言う。桃太郎が、さる・きじ・いぬを連れ歩いているようなところから命名されたのだろう。
もう30年くらい前になると思うが、私の属していた労働組合からとある市の市会議員にはじめて立候補した先輩がいて、私たちは数人規模の「桃太郎」活動をやっていた。私たちの横をちょうど通りかかったタクシーがスピードを緩めたかと思うと、タクシー後部座席の窓を下げ、顔を出して手を振って私たちに激励の言葉をかけてくださるお方がいた。
「社会党、がんばって!あなたたちが頑張らないと日本は良くならないのよ、がんばって!」
若い私たちに声をかけてくれたその人は、瀬戸内寂聴だった。もう頭を丸められていたから、瀬戸内晴美ではなく、寂聴と名乗って間もないころだったと思う。休日を返上して少人数での選挙活動を行っていた私たち。私は政党に属していなかったし、活動家でもなかったが、彼女の一言で自分たちが必要とされていることを認識させられて、うれしかった。
私たちが支援していた候補者は、見事初当選し、所属政党が亡くなった今もまだ現役で市会議員をっやっている。
瀬戸内寂聴は、いまでも「がんばって!あなたたち頑張らないと日本は良くならないのよ、がんばって!」と発信を続けている。
「あなたたち」とは、寂聴の声が届いているはずの「あなた」たちなのである。
「東洋経済」が、瀬戸内寂聴と湯浅誠の対談をネット上で公開している。これは、湯浅がホスト役で「真のリベラルを探して」というテーマの企画対談で、第1回のゲストが瀬戸内寂聴。そのリベラル対談のタイトルが「90年の人生で、今の日本がいちばんひどい」である。http://toyokeizai.net/articles/-/33286
以下ほんの抜粋。湯浅誠の発信も、広く浸透してほしいと願うものである。
湯浅:若い人たち、特に20代の4分の1が、田母神俊雄さんに投票しました。若者の投票率は低いので20代全体の6%にすぎない。とはいえ、リベラルな考え方のほうが世の中を良くして発展させていくことを、若い人たちにどういうふうに伝えていくかは大きな課題だ、とあらためて思いました。
瀬戸内:でも、なぜ若い人が貧乏なのかをよく考えないと。給料が安いのは自分が悪いわけではなくて、社会の成り立ちが悪いからでしょう。自分の責任ではなくて、給料をくれるほうが悪いのです。そうやって、どこに原因があるかまで考えないんじゃないかしら。生活に余裕がないのはわかりますけど、お風呂やトイレに入っているときはひとりなんだから、そのときに考えたらいいと思うの。余裕がないというのは言い訳のような気がします。
湯浅:確かに、お風呂やトイレに入る時間は誰にでもありますね。
瀬戸内:脱原発だって、まるで自分には関係のないような顔をしていますけど、あなたの住んでいる地域の近くの原発がひとつ爆発したら、それまでの穏やかな生活や幸せと思っている生活は吹っ飛ぶんですよ。その怖さをもうちょっと知るべきね。
瀬戸内:ええ。私の経験によると、今の日本がいちばんひどいです。だって、自分さえよければいい、隣りの人が困っていても知らん顔、自分の家さえよければいいと思っているでしょう。昔の日本人はそうじゃなかったのよ。
湯浅:安倍晋三さんを含めて若いですよね。
瀬戸内:戦争を経験した人が、まもなくみんな死にます。戦争の怖さを知らない人が、戦争のできる国にしようとしていて、本当に戦争するかもしれない。いざとなったらアメリカが助けてくれるなんて思っていたら、とんでもないですよ。中国と戦争してアメリカが加わったら、日本の半分はアメリカの何々州になって、残る半分は中国の何々省になります。日本はないです。そういうことがありうることを、今の若い人は考えてもいないですね。
湯浅:むしろアメリカが考えているのは、北朝鮮という非常に不安定要素がある中で、日本と中国と韓国がもうちょっと協調してくれよ、と。何かあったときにこんなに足並みが乱れているのでは、また自分たちが出ていかないといけなくなるじゃないか、といったことですよね。
瀬戸内:そう。自分の国のことしか考えていない。どこの国もそうです。世界の平和なんてことは考えない。自分の国さえよければいい。政治家は自分の属している政党や地域さえよければいい。世界と自分というふうなことは誰も考えていません。
自分のことしか考えないのは、教育が悪いんですね。小さい子どもにちゃんと教えないといけない。そういう考え方は幸せではなくて、隣りも向かいも裏の人もみんなが幸せでなければならないと。子どもは無邪気だから教えたら信じます。小さい頃からいい先生がひとりでもいて一生懸命教えれば、その子はそれをずっと覚えています。
湯浅:私も小学5、6年生のときに、学校の先生が教科書を使わない人だったのですが、当時、教わったことは、後でこういうことなのかとわかりました。10年以上経ってからでしたね。
瀬戸内:だから教育は大切。その教育もまた、政府が差し出がましいことをしようとしているでしょう。教育は教育の世界で独立させておかなきゃダメですよ。