プライベート 佐藤 真由美 (集英社文庫)
数年前の週刊朝日連載エッセイ「あるきかたがただしくない」。
当時は、離婚調停中だったか、子どもと家を出て行った奥さんに、
子どもに会わせてくれと、懇願するフレーズが毎週どこかに挿入されていた、
そんなエッセイを書いていて、印象に残った歌人であった。
散文のような口語短歌が特徴的な歌人で、
「かんたん短歌」の教祖的存在であり、
彼が発掘した、といおうか、彼の影響で短歌をはじめ、
デビューしている歌人が、少なからずいる。
彼がプロデュースした1冊が、佐藤真由美の「プライベート」。
佐藤は大手の出版社で女性誌の編集者をしていて、
取材で枡野と出会い、短歌に興味を持ち、この作品でデビューを果たした。
枡野浩一の「プライベート」推薦文 〈仕事・恋愛・好き・嫌い――悲しいのはなんでかな〉という長いサブタイトルが付いています。商業出版の現場では、こういうものが付きまとうのです。いかに作品本体を傷つけずに、商業的にうまく流通させるか、という部分で闘ってきました。その意味では本書の「プロデューサー」である私にも、ほんの少しだけ手伝えたことがあるんだと思います。 佐藤真由美さんはその後、続々と新刊を出しています。ファンとして楽しみ。
タイトルどおり、すっぴんのプライベートな歌が、潔い。
借りた傘返しに行くと
雨が降るような感じで
二年続いた
鎌倉で
猫と誰かと暮らしたい
誰かでいいし
あなたでもいい
走ってく
方向間違えないコツは
目的地なんて
作らないこと
まったくランダムに選んだ3首、いかがだろうか。
日本海に育った女の、情念の1冊である、
でも演歌じゃなくて、短歌なのである。