遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

音楽の先生は歌手だった

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1970年の大阪万博開催中、フェスティバルホールでの、

関西歌劇団のオペラ公演の記録が残っている。

万博記念イベントのひとつであった。

1970年7月8日(水) PM6:30 フェスティバルホール

EXPO'70 CLASSICS関西歌劇団公演
歌劇「地獄変」 芥川龍之介原作 菅沼 潤台本 大栗 裕作曲

   指 揮:朝比奈隆
   演 出:茂山千之丞
   管弦楽大阪フィルハーモニー交響楽団
   箏 曲:桐絃社社中
   操り人形:結城孫三郎一座
   舞 踊:神沢創作舞踊研究所
   合 唱:関西歌劇団合唱部

横川の僧都: 小西一郎
少将:    高田浩平
小納言:   倉島律夫
弁:     山村 弘
介:     栢本義臣
堀川の左大臣:楯 了三
陽炎:    樋本 栄
若君:    永井和子
飛鳥井:   泉 弓子
朝虫:    鈴木紀美子
錦:     松原孝子
綾衣:    前田弘子
侍童:    林久美子
       近平多加子
良秀:    伊藤富次郎
雪消の女御: 桂斗伎子
永秀:    林 達次
紅:     後藤由美子
強力侍:   不二樹正人


この中の一人が、私の中学の音楽のT先生であった。

関西歌劇団に所属されていたが、当時は教鞭をとりながらの歌手活動だったようだ。

私は、1年と2年に教わり、3年生になる時に、

確か母校の音大で指導者になられるためだったと思うが、中学教師を辞められた。

その数年後に、上記の歌劇で準主演を務められていたことを、今になって知ったのである。


その後、朝日放送のお昼のワイドショーで、短期間であったが、

週1回レギュラーで、カンツォーネなどを歌っておられた。


T先生は、私の教わったすべての先生の中で、屈指の優れた指導者であった。

田舎ものの私たちに、音楽の素晴らしさを教えてくれた。

私は、音楽の授業は大好きだったが、T先生のおかげでさらにさらに好きになった。


私の自宅にはまだステレオなどはなかったが、

授業では時々、音楽教室のステレオで、クラシック音楽を聴かせてくれた。

ステレオが聴けることのうれしさにどきどきし、その柔らかな音に、いつもうっとりしていた。


先生は、母校の音大の弦楽合奏団や混声合唱団を招聘し、

音響効果の悪い体育館のステージであったが、生の演奏会を開いてくれた。

もちろん、T先生ご自慢のテノールも、たっぷり聴かせてくれた。


先生は、一度は進学をあきらめて、社会人となっていたが、

でも音楽を諦められずに、何年か後に音大に入学されたようであった。


いつも、ご機嫌な先生で明るくて垢抜けていて、笑顔が絶えなくて、

私は大好きであった。ご自宅の大掃除を手伝いに行ったこともあった。



まれに生徒を叱る事もあったのだが、その怒鳴り声は、テノールで実に爽やかであった。

怒鳴り声じゃなくて、歌であった。


教師を辞められるときに、体育館で全校生徒を前にご挨拶をされた。

「過去も未来も大切だけど、今を大切にして生きてください。」と言って学校を去られた。



別離に涙したのは、このときが最初であった。