大家さんと僕 これから 矢部 太郎 (著) 新潮社
お笑い芸人カラテカの矢部太郎が描く「大家さんと僕」シリーズの第3弾「大家さんと僕 これから」のご紹介。このシリーズは尻上がりに充実してきた。
外階段でつながった一軒家の上下階で、矢部(二階を間借り)と同居する大家さん(独り暮らしの高齢の女性)がシリーズの主人公。
今回も、そのほとんどをチャーミングな大家さんにスポットライトを当てたエピソードで終始している。
シリーズの第1作目「大家さんと僕」が出版されたことが本書に出てきて、それにまつわる大家さんや彼女のお友だちの輪がほんわかと温かくて、大家さんの人柄の良さが再確認できる。
また大家さんの戦争体験や、辛かった戦争体験者が共有する「非戦の誓い」がさらっと描かれていて、矢部太郎はさらっと深いことを伝えたいのだろうと、私は勝手に勘繰った。戦争の話を抜きにして大家さんの優しい人格は物語れないことを、他でもない矢部太郎は実感しているはず。
さりげなく書かれた数多くのエピソードは、登場人物たちの会話、昔の実体験、人名、地名や場所、書物のタイトル、詩や歌詞の内容などのディテールがしっかりちりばめられていて、矢部はいちいちメモを取っていたのだろうかと驚いてしまう。
お笑いのネタ帳のように、毎日日記のように綿密なメモを残していたのだろうか、いい仕事振りでそのことも実に興味深い。
残念ながら大家さんは亡くなられてしまったが、矢部太郎と出会った人生の最終末は幸せだったのだろうと、本書を読んでいて至る所でそれを感じられる。
血縁関係にある祖母と孫が一軒家に住んでいるかのように、いやそれ以上に、本書の二人には「血の通った交流」を見ることができる。二人の幸福感が多くの読者に伝わってくるからこそ、当然にこのシリーズは多くの人に愛読されているのであろう。
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