遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

大きな赤い室内/アンリ・マティス

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お試し購読中の「dマガジン」の「Pen」という月2回発行のカルチャー誌が、モダンアートを特集していた。

そのPenの表紙の絵画が、上の画像、アンリ・マティス(1869 - 1954)の「大きな赤い室内」だった。

明日6月11日から東京都美術館で始まる「ポンピドゥー・センター傑作展」に、マティスのこの作品がやって来るようだ。それに合わせたこの雑誌の企画だったのだろう。

本作「大きな赤い室内」はマティスとしては油彩作品では最も後期にあたる作品で、大きさは146㎝×97㎝、1948年に制作された。晩年、病が進行し体力が落ちると、マティスは切り紙による作品が中心となった。
彼の天才的な色彩感覚と、エッジの利いたフォルムが秀逸な晩年の切り紙による作品は素晴らしいことこの上ないが、この柔らかな油彩のタッチも、やはり同様に素晴らしい。

私は、1981年に京都国立近代美術館で開催された「マチス展」でこの作品を初めて鑑賞。この「マチス展」は、マティスの作品170点ほどが展示された、彼の芸術を網羅した素晴らしい催しものだった。48日間の会期に17万人以上の入場者があったと、開催した美術館のアーカイブにある。

当時27歳の私は、マティスの色彩の魔術の虜になり、すっかりファンになってしまった。展覧会で本作のポスターを買い求めて、額装もせずに十年以上も自室に貼っていた。狭くて暗い自室が、この大きなポスターでニースのリゾートホテルの一室に変身したような気分だった。幸せな時代だった。その後、本場のポンピドゥー・センターを訪れたが、この作品を見たかどうかは忘れてしまった。

何とも楽しい、思い出の一枚である。ポスターで十分楽しめるのである。