遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

武士の家計簿/森田芳光

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武士の家計簿
監督:森田芳光
出演者:堺雅人仲間由紀恵中村雅俊松坂慶子
音楽:大島ミチル
公開 2010年12月4日
上映時間 129分


堺雅人を初めて認識したのは、NHKの大河ドラマ新撰組」(2004年)での山南敬助役を演じたとき。
声がユニークで雰囲気が新撰組らしくなくて、とても存在感があった。若いころからだてに舞台に立っているわけじゃないといった、役者然とした男だった。

あれから9年、堺主演の「半沢直樹」は、世紀の大ヒット・ドラマになった。この3か月間の日曜日は、堺雅人に楽しませてもらった。

その堺が主演した映画「武士の家計簿」とケーブルテレビで遭遇し鑑賞。
監督はいまは亡き森田芳光(「家族ゲーム」)で、遺作の一作前の作品となった。

堺扮する猪山直之は、加賀藩に仕える御算用者(ごさんようもの)。加賀藩が企業だとすると、御算用者たちが居るのは経理部で、藩の会計や資金の流れを一手に引き受ける大きな役所であった。
猪山家は、代々御算用者を輩出した家柄で、映画の中で算盤(そろばん)は猪山の「お家芸だ」というセリフも聞かれた。

剣術はまるでだめだが、算盤や金勘定をやらせると藩では右に出るものがいないという堅物の直之は、帳簿から藩の不正資金を見つけ出して、「経理部」として役目を果たそうと奔走する。
このドラマは、「半沢直樹」のような、勧善懲悪ものではないが、加賀藩のために算盤ひとつでキリリと生きる直之演じる堺雅人の姿は、どこか半沢とオーバーラップする。

一方、猪山家の借金にも目をつけ、家財や美術品や着物を売り、借金を返済する。武士なら、借金など踏み倒せばいいものを、と思うのだが、質素倹約の暮らしで家計を立ち直らせる石高180石の武家の暮らしが美しい。
直之を取り巻く、妻(仲間由紀恵)、父(中村雅俊)、母(松坂慶子)など、微笑ましいくらいの善人で、いぶし銀のような人たちで美しい。
こういう美しい人たち、今は映画で見るほかないのだろうかと、小さなため息が出る。

大島ミチルの、しっとり感のある全編に流れる音楽も素晴らしい。

森田芸術は、ここにきちんといい形で遺っている。