遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

一房の葡萄/有島武郎

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有島武郎の「一房の葡萄」は、小学校のときに担任の休みで代わりに教壇に立った先生が、
読み聞かせてくれて、今でも印象に残っています。
 
青い絵の具を見るたびに、有島の「一房の葡萄」を思い出します。
 
青空文庫で読み直してみたら、ほとんど憶えていないことに気付きました。
 
主人公が欲しかった絵の具の色は、青空や海の色である青色だけでなく、
もう一色は、船の喫水線の下に塗られている深い赤色でした。
赤い色だったとは、まったく記憶にありませんでした。
 
主人公は、葡萄を書きたかったから青い絵の具が欲しかったのかと思っていたのも、
まったくの記憶違いでありました。
 
素晴らしい色の絵の具を持っていた旧友は、西洋人のジムでした。
その絵の具は固形で、この小説が書かれた大正9年に固形絵の具を発売していたのは、
おそらく英国のウィンザーニュートン社だと思われます。
いまだに水彩も油彩も、最高峰のメーカーであります。
 
主人公が欲しかったは「コバルト・ブルー」と「クリムソン・レーキ(深い赤)」だったと思われます。
私は、ずっとチューブに入った絵の具をイメージしていましたが、
当時はまだチューブ絵の具は普及していなかったようです。
 
主人公が大好きな女先生、素晴らしい先生で、「一房の葡萄」は、
この女先生が食べなさいとくださった一房の葡萄のことでした。
 
私はこの本を読み聞かせてくれた先生のことは、女の先生だったことくらいしか記憶していませんが、
一房の葡萄」と有島武郎のことは、半世紀近くも印象にあり続けました。
短い小説なのにいろんな要素が凝縮されていて、年甲斐もなく胸を打たれまぶたが熱くなりました。