新婚旅行中の部下に、今は何処にいる?とメールすれば、
いま平泉にいると返ってきた。
本来ならフィレンツェあたりにいたはずなのに、
なぜか、みちのくをブラブラしている。
ま、フィレンツェでも平泉でもどちらでもいいだろう、
最愛の人との新婚旅行だから、何処だってイイだろう。
私は何処にも出かけていないし、その予定も立たない。
「時の娘の」警部は病院のベッドでからだを使わず、
深い思考やインスピレーションや資料の分析で、事件を捜査した、
これを、ベッド・ディテクティブという。
それに似ていて、もっと広く一般的なのが、
ロッキングチェア・フィッシャーマンである。
私は魚釣りはもう数年やっていないが、
釣りに行きたくてもいけない人が、
釣魚の本で心を慰め、行ったつもりになる。
在宅で実際には竿を出すことなく、
遠くの海や沼や湖や川に思いをはせる、
そういう輩を、ロッキングチェア・フィッシャーマンと呼ぶ。
行ったつもりになるための竿の代わりのツールは、
魚の図鑑でもいいし、熱帯魚が泳ぐ水槽でもいいだろうし、
おさかな君のDVDを観るのも悪くない(実存するのだろうか?)が、
私のお奨めは開高健の一連の「おさかな本」である。
■私の釣魚大全(文春文庫)
■オーパ (集英社文庫)
■フィッシュ・オン (新潮文庫)
■もっと遠く!―南北両アメリカ大陸縦断記・北米篇 (上・下) 文春文庫
■もっと広く!―南北両アメリカ大陸縦断記・南米篇(上・下) 文春文庫
■地球はグラスのふちを回る (新潮文庫) ※釣りの話はほんの少し
■オーパ、オーパ!!〈アラスカ篇 カナダ・カリフォルニア篇〉 (集英社文庫)
釣りを始めた頃、諸般の制約があり釣行をしたくてもままならぬとき、
そんな私の心を落ちつかせてくれたのが、
これらの開高健が用意してくれていたツールであった。
とりわけ「私の釣魚大全」は、
ロッキングチェアに居ながらにして、全国津々浦々を釣行した気分になる、
忘れ得ぬ1冊となった。
過去に「オーパ」の記事を書いた際、
その記事に「オーパ」冒頭の-中国古諺-を紹介したが、
今回は、今みちのくを新婚旅行中の釣り好きの部下に贈りたい。
一時間、幸わせになりたかったら酒を飲みなさい。
三日間、幸わせになりたかったら結婚しなさい。
八日間、幸わせになりたかったら豚を殺して食べなさい。
永遠に、幸わせになりたかったら釣りを覚えなさい。