こちらあみ子 今村夏子 (著) ちくま文庫
大学を卒業して、大阪のホテルで清掃のアルバイトをしていた今村夏子は、《ある日突然「明日から休んでください」と言われ、ふと小説を書いてみようと思い、家にあった使いかけのノートに書きはじめたのが29歳のとき。初めて最後まで書いた小説がデビュー作「こちらあみ子」となった。》という。
小学生から中学3年生までのあみ子の物語は、本書の表紙のようなメルヘンチックなものではなく、どちらかというとインパクトのあるエピソードが連なる。
広島生まれの作家の体内に、あみ子が住んでいるのかもしれないが、広島県のどこかに住む少女とその家族(父母と兄との4人家族)の日々の暮らしが綴られる。
しかし物語の舞台は、広島でなくともサイゴンでもヘルシンキであっても違和感はないし、100年前であっても同じだろう。
本書を読んで慟哭する人もいるかと思う。真綿にくるまれたように感じる人もいると思う。私は間違いなく心を打たれた、心に残る作品になった。読者は自身のなかに、この家族の誰かと共通の部品が組み込まれているように思うだろう。
全天候型非武装中立少女あみ子に、自分の3歳の孫のイメージがオーバーラップする。まだ幼くてあまり言葉も身につけていないが、ほぼ生まれたままの無垢な3歳の女児。あみ子は中学3年生の時点でもまだ無垢な少女だったような気がする。
「むらさきのスカートの女」「星の子」に続き、私にとって3冊目の今村作品。彼女の作品を時代をさかのぼって読んだことになる。読了後本作が2010年に太宰治賞、2011年に三島由紀夫賞を受賞したことを知るが、文学賞はあらためてすごいなと感心する
本書に収録された「ピクニック」の主人公ピンクのスカートの女七瀬さんと彼女の仕事仲間も純粋で無垢で、彼女たちの暮らしは毎日ピクニックのように楽しい。