遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

マガジン青春譜―川端康成と大宅壮一

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「マガジン青春譜―川端康成大宅壮一」 猪瀬 直樹 (著) 文春文庫

 目下、道路公団を相手に「橋梁」に係る談合を、おたしなめになっている、猪瀬直樹の渾身の文壇三部作のひとつ「マガジン青春譜―川端康成大宅壮一」。

 偶然だろうが、道路関係4公団民営化推進委員会で猪瀬と席を並べる大宅映子は、壮一の三女である。この本を読んで、映子女史の麗しいお姿が、父親のイメージと違う(失敬)なと前から思っていた謎が、解けたのである。
 ついでに言うと、猪瀬のあのキャラは何とかならないのかといつも思う。ま、彼が書き記したものを読むには関係ないので、話を戻すことにする。

「文壇三部作」(勝手に命名した)は以下の3作。(小学館のHPより)

『ペルソナ 三島由紀夫伝』- 天才作家が目指した世界とその宿命を描く、渾身の評伝。

『マガジン青春譜 川端康成大宅壮一』- 雑誌の黎明期を駆け抜けた二つの才能とその哀感を描く、青春小説。

ピカレスク 太宰治伝』- 「井伏(鱒二)さんは悪人です」。太宰治の遺書の謎に迫る、本格評伝ミステリー。

 「ペルソナ …」は買っていない。「マガジン …」と「ピカレスク …」は、ハードカヴァーで購入し、「ピカレスク…」は3年以上いわゆる「積ん読」状態、しかし、この「マガジン…」は、しっかり面白く読んだ。これが一番だと、あとの2作を読みもしないのに思う。

 川端と大宅は、一歳違いの同郷(現在の大阪府茨木市)&同窓(茨木中学-旧制高校は違う-東京大学)という間柄。二人の交流はあったのかどうか、本書に書かれていたのかどうか、忘れたが、互いに意識しないはずはなかったであろう。

 大宅は、実家の醤油の醸造を営む、労苦を積んだ青春だった。重い醤油を載せ、茨木から大阪市内まで、大宅少年は何を考えて大八車を牽いていたのだろうか。後の評論活動の原点を見る思いがした。

 本書は、芥川龍之介菊池寛の友情&嫉妬物語も、平行して進んで行き、こちらの方もすこぶる面白い。菊池の目を通して、芥川の才能をあらためて認識させられる。

 文春の「芥川賞」「直木賞」を創設した菊池寛。ま、自ら「直木賞」ではなく「菊池賞」を創るわけにはいかんのでしょうが、文芸春秋など文芸誌の草創期の話も、興味深く読んだ。この時代の、菊池をはじめとする先人たちのエネルギーのおかげで、今の文壇や出版社が在るのである。

 先人たちがいい時代を創ってくれたのである。

 猪瀬は、『ミカドの肖像』で第18回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞し、世に出た。これは、偶然ではないが、大宅との関わりがここにもある。
 山本容子の表紙画(左から大宅・川端・菊池)もイイ。この表紙のものを、文庫(文春)、ハードカバー(小学館)どちらでもお好みで、お気楽に読まれたし。