遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

英国王のスピーチ/トム・フーパー

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英国王のスピーチ
The King's Speech
監督 トム・フーパー
出演者
コリン・ファース
ヘレナ・ボナム=カーター
ジェフリー・ラッシュ
日本公開 2011年2月26日
上映時間 118分


金曜の夕食後、映画のDVDを借りにレンタル店へ。
お目当てのコーエン兄弟とヒラリー・スワンクの作品を探していて、
英国王のスピーチ」に遭遇。まだ見てなかったことに気付く。

吃音の国王がそれを克服していくという物語で、それ以上でもそれ以下でもない。

発声練習を積んでいく中で、国王ジョージ6世陛下が、
とても記事に書けないような悪態をつくシーンがあるが、国王でもあんな言葉を発するのかと驚く。
もっと驚くのがそれを映画で忠実に描いているということ。
エリザベス女王の父親が吃音だったなどと、いまさら映画にしなければ大多数の人は知らないままだったろうに。

それから、ジョージ6世の兄エドワード8世の退位についての、これまた王室の恥部(美談?)も、
避けて通れなくて、エドワードが首っ丈になったシンプソン夫人の描き方に少し悪意を感じた。

たとえば、わが国では、明治天皇大正天皇昭和天皇はこんなだったと、
マイナスイメージになるようなことを、映画で描くことはまずない。
英国はここまで開かれた王室なんだなと、王室がどのような反応をしているのかは知らないが、感心する。

まず、国王と軋轢を繰り返しながら、話し方のレッスンを続ける言語聴覚士のライオネル・ローグが見事。
クライアントが国王と知ったときの驚きは、どれほどのものだったかと思うのだが、
決して自分を見失わず、国王がタバコを吸おうとするとそれを徹底的に取り上げるし、
治療したければ自分のオフィスに通えと国王に言うのだから、すごい人である。

その言語聴覚士を、オスカー男優ジェフリー・ラッシュ「シャイン」レ・ミゼラブル」)が演じる、
泰然としていて文句のつけようがない。

国王夫妻を演じるコリン・ファースとヘレナ・ボナム=カーターもとてもいい。
国王の発音の不正確なところは、英語を理解しない私には明確ではないし、字幕でもニュアンスは伝わらない。
それでも、国王役のコリン・ファースの控えめに表現する不安や苛立ちと、
大胆に表現する癇癪や絶望は、時代や国境や階級を越えて伝わってくる。
また、その夫を見守り支えようとする王妃のヘレナ・ボナム=カーターが、それゆえに美しい。

クライマックスは、ジョージ6世が、ナチスとの開戦に臨んで、
国民と全世界に向けた、「英国は堪忍袋の緒が切れました」的演説を行なうシーン。
私はこの演説を実際に聞いたことがあるが、この映画のほうが当然にドラマチックであった。
ベートーベンの交響曲第7番2楽章の静かな行進曲をバックにしたこのシーンは、
名作には必ず存在する、忘れ難い名場面として多くの人たちの記憶に留まることだろう。

映画の中の、ウエストミンスター寺院内部は、本物なのだろうか、
制作費は15百万ドルの映画は、各賞総なめ映画となり世界中で大ヒットし、興行収入は4億ドルを優に超えた。

絶望から生還する人間は、時代や国境や階級を越えて支持されるのである。