遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

トゥルー・グリット/コーエン兄弟

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トゥルー・グリット
True Grit
監督・脚本・製作
ジョエル・コーエン
イーサン・コーエン
原作
チャールズ・ポーティス『勇気ある追跡
製作総指揮
スティーヴン・スピルバーグ
ナレーター エリザベス・マーヴェル
出演者
ジェフ・ブリッジス
ヘイリー・スタインフェルド
マット・デイモン
ジョシュ・ブローリン
音楽 カーター・バーウェル
撮影 ロジャー・ディーキンス
日本公開 2011年3月18日
上映時間 110分

ジョン・ウェイン主演の1969年の西部劇映画作品「勇気ある追跡」のリメイク版を、
コーエン兄弟が監督・脚本・製作した「トゥルー・グリット」をレンタルDVDで鑑賞。

父親をジョシュ・ブローリン演じる無法者に殺された14歳の少女ヘイリー・スタインフェルドは、
飲んだくれの老いぼれ保安官ジェフ・ブリッジスを雇い、ジョシュを追いかける。

同じくジョシュを追いかけるテキサスレンジャーのマット・デイモンも加わり、
3人は冬の荒野に馬を駆り、野宿を重ね、無法者を追いかける。

14歳の少女役、ヘイリー・スタインフェルドが何ともチャーミングで凛々しくて素晴らしい。
百戦錬磨の、でも少し「大根系」のジェフ・ブリッジスマット・デイモンを食って、
この作品は彼女の作品となった。
被っている帽子もかっこよくて、コスチュームもよく似合う。
コーエン兄弟の脚本が素晴らしいので、彼女の発する言葉が生命感を持つ。
映画冒頭の、父親の遺した財産を取引する際の、街の商人とのやりとりの場面で、
私は彼女の虜になってしまった。

と同時に、このシーンで、私はコーエン兄弟の波長とシンクロする。
彼らとの相性はとてもよく、この作品でも彼らは私を歓迎してくれそうだと確信するのである。

ジェフ・ブリッジスは、年齢を重ねて渋みが増してきて「大根系」の風合いが薄れてきたのがいい。
マット・デイモンは、生真面目に帽子を被ったテキサスレンジャーを「大根系」の風合いで演じているのがいい。
これまた脚本がいいので、二人ともいい味わいの男ぶりなのである。

3人が馬に乗り大平原を行くシーン。
カメラは地面近くからゆっくりと上昇していくと、視界は地平線の彼方に広がっていき、
大山脈の稜線が3人の遥か前方に姿を現して来る。
このシーンが代表するような、アメリカ西部の大自然の特徴をよくとらえたカメラワークもお見事である。

一件落着かと思わせてから、14歳の小娘に雇われた老保安官には、もうひと仕事舞い込んでしまう。
ゲーテの詩「魔王」のシーン。
熱を出した息子を医者に連れて行くため、息子を腕に抱いて夜の闇を馬で駆け抜ける父親。
そのシーンを思い浮かべてしまった。

物語は、ナレーターのエリザベス・マーヴェル(ヘイリー・スタインフェルドの25年後を演じる)
の想い出物語という形式をとり、マーヴェルは、最後にジェフ・ブリッジスを尋ねる。
ある男たちに、彼の行方を尋ね立ち去る際に、「クズは座ったままでいいわ」と言葉を吐き捨てる。
彼女を目の前にして、椅子から立ち上がらなかった無礼な男に「クズ」と呼ぶエリザベス・マーヴェル。
14歳のときに「トゥルー・グリット(真の勇気)」と出会った彼女の生き方を象徴する、
厳しいひと言である。