遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

今朝の春/高田郁

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 今朝の春―みをつくし料理帖   高田 郁 (著)    (ハルキ文庫)



「今朝の春」は、女料理人澪(みお)の「みをつくし料理帖」シリーズ第4作目である。

昨年秋に発売されてすぐ購入したのだが、

まずうちの奥さんが読み、次女が読み、私の知人宅に渡り、

そうこうしているうちに私はマイルスデイビスの自叙伝を読み始めて、

これに時間をとられて、今般ようやく澪に会うことが出来たのである。


シリーズの出演者たちは相変わらずで、彼らの4編の顛末が面白くて、

本書も楽しく読ませてくれた。


澪の幼馴染みで、吉原ナンバーワン花魁のあさひ太夫こと野江のことを、

作品にしようとする澪の料理店「つる家」の馴染み客(戯作者と版元)の顛末。

大奥に奉公に上がる大店の娘美緒が、「つる家」で料理修行を始める顛末。

「つる家」を手伝うおりょうの夫で大工の伊佐三が、新宿での疑惑の行動の顛末。

年末のお江戸の料理番付で、共通の食材「寒鰆(さわら)」を食材として

天下の料亭「登龍桜」と、澪の店「つる家」の雌雄を決する顛末。


そして、全編に共通して流れるのが、澪が慕う小松原さまへの思慕の情。

澪の店へはあまり足を運ばないのだが、忘れた頃にひょっこり顔を出し、

澪と私たち読者に温かい空気を運んでくれるのが、謎の男小松原。

今回は小松原の母親が澪の店に偵察に来たり、彼の素性が判ってくるという筋立て。

小松原は、将軍の食をつかさどる、時に毒見をしたりするお役目の奉行である

「御膳奉行」のひとりであるという。

将軍が口にするものは、安全の面から旬のものや創作ものは敬遠されるなど、

実に制約が多く、将軍より「つる家」の客の方がおいしいものを食べているはずだと、

本書で紹介されている。

なので、小松原は澪の店で、御膳奉行としてではなく、

町衆として飛び切りうまいものを口にしていたのである。

時々登場する風采の上がらない謎の男は、実に高貴職業を持つ、

今で言う高級官僚だったことが、初めて明かされたのである。

そのことを知った澪は、身分の大きな違いに落胆し、思慕の念を絶ち、

料理道を極めていこうと決心するのである。

ただ二人の仲は、これから発展しそうな予感を漂わさせている。


小松原は、第1作から飄々と登場するのであるが、

作者の高田は、はじめから彼を「御膳奉行」として仕込んでいたのだろうか、

だとしたら何という先を見越したことなのだろう。

逆に、途中で彼を御膳奉行に仕立て直したのだとしたら、何という柔軟性なのだろう。

いずれにしろ読者には違和感なく、この料理帖シリーズは流れていき、

多くの読者を楽しませているのである。


すでに私は、このシリーズの第5作目を読み始めているのである。