遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

炎のランナー/ヒュー・ハドソン

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炎のランナー  (1981)  CHARIOTS OF FIRE



今日の天皇賞ディープインパクトの走る姿をスロー映像にして、

音楽をつけるとしたらヴァンゲリス炎のランナー」か。


20歳代後半の私は、「炎のランナー」を観たのち、

ランナーになっていく、「炎」ではなく「ほのぼの市民ランナー」になっていく。



純白のウェアを身に着けた集団がトレーニングするシーンから始まる。

ため息の出るような感動が湧き上がる、まだ冒頭なのに。

バックにはヴァンゲリスの、かの美しいテーマ曲が流れていく。


この、タイトルバックに優る映画はそうそうない。



ユダヤ人として生まれた青年ハロルドと、

宣教師の子息として生まれた青年エリックの、

似ているのにまったく違う「神」に祝福されて生まれ育った二人の主人公の、

実在した主人公の、1924年のオリンピック、パリ大会までの物語である。

衣装も舞台背景も時代を逸脱することなく、実に丁寧に作品化されている。



ベニスの商人」の高利貸しシャイロックの時代から、

欧州でのユダヤ人は、常にマイノリティで蔑まれた歴史を持った人種であった。

ケンブリッジ大学に進学したハロルドは、エリートではあったが、

上流階級に属する人間ではなかった。


オリンピックでゴールテープを切る人には、重くて深い歴史に背中を押されて、

それを成し遂げる人が少なくないのかもしれない。


アフリカ系アメリカ人も、オーストラリアのアボリジニも、それに似ているのかもしれない。



一方、オリンピックの本番で、出場レースが日曜日に重なったエリックは、

日曜日は安息日だから競技に出ないと決める。

英国皇太子が説得しても、神は皇太子より偉大であった、

彼は日曜日には、遂に走らなかった。


別の曜日に出場して、エリックがゴールテープを切るシーンは、素晴らしい映像美であった。

神に見守られてゴールを駆け抜ける人も、少なくないであろう。



英国とひとことで言っても、実は小さな国が合わさっており、

厳密には違う国教や文化を持ち、人々は拠り所を異にして暮らしている。


しかし、冒頭シーンやエンドロールの海岸線のほか、

二人の青年がトレーニングを積む英国の自然の美しさは、

同じ「神」が宿っているとしか思えないのであった。



大仕掛けなスペクタクルはない、静かな映画であったにもかかわらず、

人の心に燃える炎を見事に描ききった秀作であった。


(画像はこの映画のサントラ盤のジャケット)

炎のランナー

上映時間 124 分
製作国 イギリス
初公開年月 1982/08

監督: ヒュー・ハドソン Hugh Hudson
原作・脚本: コリン・ウェランド Collin Welland
衣装デザイン: ミレーナ・カノネロ Milena Canonero
音楽: ヴァンゲリス Vangelis
 
出演: ベン・クロス Ben Cross
イアン・チャールソン Ian Charleson
イアン・ホルム Ian Holm
ナイジェル・ヘイヴァース Nigel Havers
ナイジェル・ダヴェンポート Nigel Davenport

アカデミー賞
1981年 ■ 作品賞
助演男優賞 イアン・ホルム
□ 監督賞 ヒュー・ハドソン
脚本賞 コリン・ウェランド
■ 作曲賞 ヴァンゲリス
■ 衣裳デザイン賞 ミレーナ・カノネロ
編集賞 Terry Rawlings
 
カンヌ国際映画祭
1981年 □ パルム・ドール ヒュー・ハドソン
助演男優賞 イアン・ホルム
アメリカ批評家賞 ヒュー・ハドソン
 
NY批評家協会賞
1981年 ■ 撮影賞 デヴィッド・ワトキン
 
ゴールデン・グローブ
1981年 ■ 外国映画賞
 
英国アカデミー賞
1981年 ■ 作品賞
助演男優賞 イアン・ホルム
ナイジェル・ヘイヴァース
□ 監督賞 ヒュー・ハドソン
脚本賞 コリン・ウェランド
□ 作曲賞(アンソニー・アスクィス映画音楽賞) ヴァンゲリス
□ 撮影賞 デヴィッド・ワトキン
■ 衣装デザイン賞 ミレーナ・カノネロ

 ■=受賞、□=ノミネート