遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

永井みみ「ミシンと金魚」 女たちの壮絶な人生、重くて深い。けど暗くない。

ミシンと金魚  永井 みみ  集英社

多くの週刊誌・月刊誌や新聞の書評に取り上げられていた「ミシンと金魚」という小説のご紹介。

著者の名前のイメージから若い女性だと思っていたのだが、読み始めてすぐ行間に漂うどっしり感に心が落ち着くのを確かめられた。そこで著者の経歴を確認し、納得。

本書は、認知症を患うカケイという女性の独り語りの小説という形態を取っていて、冒頭から数ページくらいで「あー。じいさんにうまれなくて、しみじみよかった。」というカケイの一言に、じいさんである私は吹き出してしまった。あまりにもあけすけなカケイの独白に、早くも引き込まれてしまった。

カケイは歩くのもやっとという状況で、昨日のことはあまり覚えていなくても、過去のことや目の前の状況にははっきり頭が働く。現在と過去に登場する家族を中心とした男女が、中上健次の「新宮」小説の如く個性ある人たちで、カケイと周辺の男女の群像小説でもある。

小説のタイトルの「ミシン」は、カケイが手に職をつけたツールで、彼女はミシンを踏んで踏んで生きてきたのだった。「金魚」は、詳しく書かないがカケイが一時期飼っていた庭先の金魚のことである。

カケイやその周辺男女の壮絶な物語は、ドライブ感があり、個性的なカケイの語り口調がまるで講談のように私を引っ張って行ってくれた。また、カケイの口から発せられる介護士のみっちゃんや家族と交わす現在のはなし言葉がユーモラスで愛らしくて、安定感がある。

彼女が語ったり思い出す家族の暮らしは、社会の隅に追いやられるような極貧で、だからこそ壮絶で、後半のこの物語のクライマックスな場面では、私がじいさんのせいなのだろうか、涙がにじみ出てくる感動をもたらしてくれた。

144頁とさほど長くない物語に、何人の女の人生が詰まっているのだ、と思わせられるほどに中身が凝縮されていて、重くて深い。けど暗くない。

ジェンダーがどうのこうのと言われて久しいが、ミシンを踏み続けてきたカケイや周辺女の一生を読めばそれがいろいろわかると思う。こういう良き小説にはかなわないなあと思うのだった。

本書は永井みみの初小説で、彼女は1965年生まれで、ケアマネージャーの仕事の傍ら本書を書き上げたという。本書は集英社の純文学の公募新人文学賞、第45回「すばる文学賞」を受賞した。第35回「三島由紀夫賞」の候補作品にもなった。

おすすめ度◎

【おもな書評】
週刊朝日「週刊図書館」:  7/16 号、3/11 号、
週刊文春「文春図書館」: 5/19 号
女性自身「今週の本」: 4/19 号
ダ・ヴィンチ : 5月号 今月の絶対はずさない!プラチナ本
週刊文春「文春図書館」:3/31 号
サンデー毎日「SUNDAY・LIBRARY」: 3/13 号
女性セブン「セブンズライブラリー」: 3/10 号
朝日新聞: 3/5 朝刊 22 冊