遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

るり姉/椰月美智子

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るり姉   椰月 美智子   (双葉文庫)
 
5月19日の朝日新聞の書評欄の「売れている本」で、椰月美智子の「るり姉」を知ってさっそく購読。
 
主人公のけい子は、長女さつき、次女みやこ、そして三女がみのりという、3姉妹の母親である。
夫とは離婚していて、けい子は看護師として忙しい日々を過ごしながら3姉妹を育てている。
 
この小説のタイトル「るり姉」は、けい子の妹のるり子のことで、3姉妹は叔母さんと呼ばずにるり姉と呼ぶ。
 
物語は5章に分かれていて、高校生のさつきと、けい子と、中学生のみやこと、るり姉の配偶者の開人(かいと)と、4年の歳月が流れて高校生になったみのりが、それぞれの章の語り手となっている。
それぞれが一人称でそれぞれの生活を語るのだが、登場人物は語り手たち5人と、るり姉と、おばあちゃん(けい子の母)たちプラスαのファミリードラマである。
子どもたちやけい子や開人の日々と、その日常に登場するるり姉が描かれた、日記や紀行文のような小説である。
 
このけい子ファミリーの中心に太陽のように存在しているのが、るり姉である。
3姉妹は、どんな時でも同じ距離感で明るく接してくれ勇気を与えてくれるこの叔母が大好きで、褒めてもらいたい存在でもある。
 
るり子と開人夫婦が東京からドライブ旅行で訪れるのが、愛知県は知多半島の先に浮かぶ日間賀島。私が行きたかった島だったのでびっくりした。
何もない日間賀島で何もしないリゾート、贅沢の極みで、るり姉はそういうこともできる人なのであった。
 
「るり子はまったく自由だ。うらやましくなる反面、気の毒にも思う。自由なるり子は、いつだって窮屈そうだから。」
とけい子が妹の一面を短く語っているフレーズがある。
 
患者にいじめられ、私服のズボンのチャックがいつも開いているほど太ってきて、マイカーの車内はごみ箱のように散らかっていても、3女の母として姉として凛としているけい子はたくましい。
一方、るり子は、太陽光を照射しつづけることを天職のように感じていて、まぶしい。
 
そんな小説「るり姉」は、日間賀島のようにのんびりと平和な作品である。