遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

007カジノ・ロワイヤル/マーティン・キャンベル

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「007ロシアより愛をこめて」(当時のタイトル「危機一発」)の日本での公開は1964年。
シリーズ第2弾で、私はまだ小学生。

ロシアより愛をこめて」公開当時に、テレビで映画紹介の番組での印象的な解説があった。
ボンドたちがオリエント急行の中で食事をするシーン。
魚料理を頼んだボンドとお連れの女性が、白ワインを注文する。
一行のもう一人の男も同じ魚料理を頼んだのだが、ワインは赤にした。

通常、魚料理には白ワインが基本で、赤ワインを注文した男は、
常識外の怪しい男(後にソビエトのスパイだと判明)という伏線がこのシーンにはあるのだという。

当時小学生の私は、007作品で、魚料理には白ワイン、肉料理には赤ワインが王道だということを知った。
今なら、一応はそういった王道も知っての上で、ワインの白赤に拘りはないのだけれど、
1964年当時の日本人の大多数は、きちんと解説をしてもらわないと、
オリエント急行でのそのシーンはよく分からなかったはずだ。

ましてや田舎の小学生の私には、驚きのドラマチックな解説だったわけである。
ショーン・コネリーのスマートさや共演のダニエラ・ビアンキの美しさにうっとりし、
ボンドの愛車のアストン・マーチンにも憧れを持った小学生だったが、
オリエント急行の食堂車とワインのエピソードが、今も強く印象に残っているエピソードであった。
(タイトルの「危機一発」は造語で、正しくは「危機一髪」だということも知った。)

その後、もう少し大きくなって高校生くらいの頃にリバイバル上映で、
ロシアより愛をこめて」(テレンス・ヤング監督)の本編を、どこかの映画館で鑑賞した。
おしゃれな雰囲気で、スリリングで、ストーリーに変化があり、007シリーズではもっとも好きな一作である。
いろんな映画を見て、大きくなってきたんだなぁと、いまさらながら感慨深い。

ショーン・コネリー以外のボンド役は、私の辞書にはないので、
ロジャー・ムーア以下の007シリーズは見たことがなかったのに、ケーブルTVで立て続けに最近の007を鑑賞。
ダニエル・クレイグ主演の「007 カジノ・ロワイヤル」(2006年)と「007 慰めの報酬」(2008年)。
この2作はストーリが連関していて、監督は異なるが、脚本や製作総指揮者が同じで「双子映画」である。
名女優ジュディ・デンチも両作品で、ボンドの上官を演じて存在感を示している。

英国映画だった007シリーズは、アメリカ製作映画になってしまったにもかかわらず、
ボンドは、まだアストン・マーチンに乗っていた。
携帯電話やコンピュータやGPSや衛星写真など、21世紀の諜報ツールは、当然に全面デジタル仕掛。
製作面でも、カーチェイスや肉と肉がぶつかるアナログシーンが、上手にデジタル画像処理がされていて、
アナログとデジタルのハイブリッド画面が楽しめる仕掛けとなっている。
勧善懲悪・波瀾万丈・荒唐無稽(褒めことば!)な娯楽映画の鑑(かがみ)のままだった。

小説「ミレニアム」シリーズの第1作映画「ドラゴン・タトゥーの女」で、
主演の雑誌編集者を演じていたダニエル・クレイグ
写真でしか彼を見たことがなかったが、この007でのダニエル・クレイグは、
写真でのぶ男ぶりを払拭するタキシードの似合うなかなか魅力的な男であった。
ジェームス・ボンド役の俳優はまずタキシード姿がさまにならないと、資格なしなのだろう。

意外に楽しめた、007新シリーズであった。続編が今秋「007 スカイフォール」として公開される予定という。