遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

容疑者/マイケル・ロボサム

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 容疑者 (上・下)  マイケル・ロボサム (著)   越前 敏弥 (翻訳) (集英社文庫)

ロンドンにオフィスを構える中年の臨床心理士ジョーは愛する家族とやりがいのある仕事に恵まれ、人生航路は順風満帆だった。そこに思いがけない病の宣告と身に覚えのない殺人事件の嫌疑をかけられる。それが妻子と自身の命を脅かす警告であることに彼は未だ気づかない。孤軍奮闘する真犯人探しの物語は現代の病理を的確に描く。30ケ国以上で翻訳された傑作ミステリー。

書棚に眠っていたマイケル・ロボサム著の「容疑者」を手に取った。
Amazonによると、「お客様は、2008/4/21にこの商品を注文しました。」とある。
なぜ買ったかはまったく記憶にないし、4年間じっとわが部屋の隅で眠っていた2冊であった。

主人公は臨床心理士というのが、少し変わっている。
物語はその主人公が「わたし」として終始語ってくれる。

偉大な医師である父親がすすめる医学の道を逸れて、主人公ジョーは心理学を修め、
いまや多くのクライアントを抱える立派な臨床心理士
しかし、彼は大親友の医師からパーキンソン病だと告げられる。

ジョー一家(ジョー夫妻と娘)が、ジョーの伯母さんの墓地を訪ねたとき、
その目と鼻の先で、彼の元クライアントだった看護師の遺体が地中で発見される。
あろうことか、伯母さんの墓には、遺体が埋まっていた場所の土が付いたスコップが立てかけられていた。

伯母の墓という土地勘のある場所近くに、元クライアントの遺体と、それを埋めるのに使ったと思しきスコップ。
この取って付けたような取り合わせに、ジョーは容疑者として拘留される。

主人公の一人称で語られる物語なので、主人公「わたし」が犯人でないことは、
主人公と私たち読者だけが分かっている。
そして、蛇足ながら、一人称で語られるので、「わたし」は生きていることも判然としている。

拘留期間が解けたジョーは、病で言うことを聞かない身体に鞭打って、
めぼしを付けている真犯人を自分の代わりに警察に突き出すために、
犯罪分析官のごとく真犯人をプロファイルしていく。

その課程で、また新たな事件が起こり、
加えて、過去の事故や事件が真犯人の輪郭を浮かび上がらせてくる。
キャリアある臨床心理士ならではの、深い洞察力と、
そこからの根気ある分析課程がていねいに描かれていて、著者の心意気が伝わってくる。

真犯人を追いかけつつ、警察から逃げているという、スリリングなロード・ムービのようであり、
ラストは、映画「ターミネーター」や「レッド・ドラゴン」のごとく、
「えーっ」と、すんなり終らせないところがドキドキさせてくれるのである。