遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

日本でいちばん大切にしたい会社/坂本光司

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日本でいちばん大切にしたい会社   坂本 光司 (あさ出版


本書の第1部で、著者は「会社経営とは『5人に対する使命と責任』を果たすための活動」

であると規定する。

5人とは、1社員とその家族、2外注先と下請企業の社員、3顧客、4地域社会、5株主、を指す。

そして、責任を果たす相手の重要度は、1から5の順位であるというのだ。

顧客や株主より、社員とその家族を大切にすることが、会社経営の使命と責任だという。

つまり、経営の目的とは

1 社員とその家族を幸せにする
2 外注先・下請企業の社員を幸せにする
3 顧客を幸せにする
4 地域社会を幸せに、活性化させる
5 株主を幸せにする

ことだというのである。


自社の社員を大切にすれば、その社員が顧客を呼んできて顧客を大切にし、

業績が伸び、株主も幸せに出来る、というのである。


そして本書の第2部では、そういった経営の目的を経営の理念に据え、

業績を上げ、5人に対する使命と目的を果たしている6企業が紹介されている。

日本理化学工業―チョークの製造

伊那食品工業―寒天製品の製造

中村ブレイス工業―義手や義足など医療製品の製造

株式会社柳月―菓子メーカー

杉山フルーツ―青果店


私はこの本を読むまで知らなかった企業なのだが、

今日昼休みにその話をしたら、

「かんてんパパ」の伊那食品工業

帯広の柳月、島根の中村ブレイスの3社は知名度があった。


日本理科化学工業は、従業員50人のうち7割が障害者である。

1959年、この会社に養護学校の女子教諭が、知的障害である二人の少女を、

採用してくれないかと訪ねる。

社長の大山は悩みに悩んだ末、採用は断るのだが、

教諭の「職業体験だけでもやらせてくれないか」という誘いには承諾したのだった。

二人の少女の研修期間が明日で終わりだという日に、社長は当時の十数人の従業員全員に、

「来年の4月1日に、あの子たちを正社員として採用してください。

私たちがみんなで彼女たちをカバーしますから、採用してあげてください」

とお願いされ2人を採用することになる。

従業員の心を動かしたのは、彼女たちの一生懸命な姿だったという。

何とか地域の最低賃金で雇用できたというから、

彼女たちを戦力にするための企業努力や周囲のカバリングには、敬服するしかない。


6企業のそのようなエピソードが、心底感心する話が第2部の尾頭にぎっちり詰まっている。


日本一辺鄙なところにある会社、中村ブレイス

 ある日、高校二年生の女の子が訪ねてきて、こう言ったそうです。

「私は進路選択で東京の大学に行く予定でいます。でも、東京の大学を卒業したら、ふる

さとに帰って、お父さん、お母さんと暮らして親孝行がしたいと思います。それでどうし

ても中村ブレイスに就職したいのです。大学での四年間、私はどんな勉強をしてきたらい

いのでしょうか? どんなことを身につけ、どんな資格を身につけたらいいのでしょうか?」

 中村社長の答えは「いい友だち、いい先生に出会ってくれば、それでいいですよ。多く

の人と会ってたくさんの友だちをつくってください。これから五年間、あなたの入社を待っ

いますからね」というものでした。

こういう経営者だからこそ、いい企業になっていくのである。


著者の坂本法政大学教授は、6000社に及ぶ会社訪問から、

「日本でいちばん大切にしたい会社」6社を選んだ。

1000社に1社のいい会社だということなのである。

坂本が、日本理科化学工業を訪問したとき、

応接室にコーヒーを持ってきてくれたおばあさんがいた。

「よくいらっしゃいました。どうぞコーヒーをお飲みください」と、小さな声で言うと、

また、お盆を持って、帰っていきました。

 その方が行ってしまってから、大山社長が、私にぽつりとこう言いました。

「彼女です。彼女がいつかお話しした最初の社員なんです」

 彼女こそ、およそ五〇年前に入社した、二人の知的障害をもった少女の一人だったのです。

(略)腰が曲がって、白髪でした。