遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

悔恨の日/コリン・デクスター

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の記事を書いて1年以上たつ、その速さに少しショックを感じる。

気を取り直して、

今回は、モース警部シリーズの最後の作品「悔恨の日」。

コリン・デクスターは、この人気シリーズに自らピリオドを打った。


話は変わるが、映画「逃亡者」の捜査官たちの捜査会議の場面を観ながら、

長女が「ああいう仕事好き」とのたまう。

確かにカッコイイ。

黒澤明の『天国と地獄』や、野村芳太郎の『砂の器』の捜査会議の場面も

良い、仲代達也や丹波哲郎の一世一代の名演を観られる。


しかし、モースシリーズを読むとそうは格好よくはいかない。

行きつ戻りつ、こんがらがった釣り糸を解くような、

忍耐強い捜査が続くのであった。


各章の冒頭には、よくもまぁいろんな文献から探してくるなと感心する、

しかし、その章を暗示する見事な引用文が紹介される。



序章の引用文

        きみは清潔な胴着(ボディス)をまとい

        私の上から胸を近づける

        守護天使がそばにいてくれたら-

        病苦が長びいても構いはしない

              エドマンド・レイクス(1537-65) 『看護婦』



物語は48歳の妖艶な看護婦とその知的な家族、

彼女の夫と長男と長女、を中心に展開する。


彼女は、実年齢とは無関係に、世の男を惹きつける。

実際私も人の魅力と実年齢とは、何の相関関係もないと思う。


例外もなくモースもその看護婦の魅力の虜になる。


また、モースも登場した物語のすべてでそうであったように、

実年齢とは無関係に、周囲の人間が魅力を感じざるを得ない存在でもあった。


看護婦とその家族を取り巻くすべての容疑者達、

よくもまあ個性的な人物を登場させてくれると、

これまた、コリン・デクスターの手腕に感服するが、

かれらのこんがらがった相関図を解いていくモースと、

彼の部下ルイス部長刑事、上司のストレンジ主任警視。


このシリーズお馴染のモース、ルイス、ストレンジの3人、

作者の愛情を注がれた彼らの優秀さが際立つ作品に仕上げられている。

殊に、間抜けな部下と上司だったはずのルイスとストレンジへの、

コリン・デクスターの愛情は、微笑ましくもあり美しい。


この事件はこの3人もこんがらがっていて、

いやはや、世の男性諸君は魅力的な女性を前にまったくだらしがないのだが、

しかし、ふやけた3人の友情は鉄のように固く、

シリーズ最後になって、不思議な展開をみせることになるのである。




コリン・デクスター作品群

ウッドストック行最終バス 1975  
キドリントンから消えた娘 1976  
ニコラス・クインの静かな世界 1977
死者たちの礼拝 1979    CWAシルヴァー・ダガー
ジェリコ街の女 1981    CWAシルヴァー・ダガー賞 
謎まで三マイル 1983  
別館三号室の男 1986  
オックスフォード運河の殺人 1989    CWAゴールド・ダガー
消えた装身具 1991  
森を抜ける道 1992    CWAゴールド・ダガー
モース警部、最大の事件 1993 短編集
カインの娘たち 1994
死はわが隣人 1996
悔恨の日 1999