嘘つきアーニャの真っ赤な真実 米原 万里 (角川文庫)
この一冊を斉藤美奈子が薦めるので、
矢も盾もたまらず会社帰りの最寄の駅のkioskで買い求めた。
「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」は、その時代に出会ったクラスメート、
楽しい思い出のいっぱい詰まった少女時代と、
その後の「東側」の運命に翻弄された悲しい彼女たちの半生を描いた、
ノンフィクションである。大宅壮一ノンフィクション賞受賞作である。
■目次 「リッツァの夢見た青い空」 「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」 「白い都のヤスミンカ」
敢えて「東側」と表現したが、西欧やキリスト教から取り残された、
東側の絶望的な歴史と現実が、3人の少女たちの前にあった。
遠く「プラハの春」の息吹から始まり、何度も冬の時代に逆行しながら、
民主化にたどり着いたかの国々にいるはずの大人になった3人の少女を、
同級生マリ(米原万里)が捜して歩く。
葛飾北斎を神と崇めていた、ヤスミンカのために、
「凱風快晴」の版画を手に消息をたずねてあるくマリ。
ヤスミンカは、当時はベオグラードで育ったユーゴ人ではあったが、
どの民族に属していたのか判らないままであった。
これらの国々がユーゴ連邦を作り上げていたから、
マリが訪れた頃は、冷戦が解けはじめたことから戦火が絶えない状況になっていた。
この「白い都のヤスミンカ」には、涙が出て仕方がなかった。
私は○○主義(思想・哲学)や○○教(宗教)とは縁遠い、
無教養な人間であるが、そんなこととは無関係に、
少数のしかし均等にどこにでも居る「愚か者」に、
多数の美しい人たちが翻弄される歴史や日常に、絶望感を抱いてしまう。
でも軽くいなしてお気楽に生きていこうとも思う。
マリも、随分シモネタやダジャレの好きなお気楽に見える楽しいお姉さまである。
彼女のこの一冊は、ライトな感覚の文章で、重厚な真実の人間ドラマが展開される、
人間の愚かさと素晴らしさの両方に接することが出来る。
著者、米原万里は先月5月25日に永眠された、まだ56歳であった。
彼女の特徴のあるあの声で、この本を読み聞かせてくれたような感覚になっていた。
謹んでご冥福を祈りたい。