遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

凱風快晴/葛飾北斎

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「凱風快晴/葛飾北斎


1960年代、ユーゴスラビアの「白い都」と呼ばれるベオグラード

暮らしていた少女ヤスミンカ。

ヤスミンカは小学生にして、すでに博識・博学で、つまりお勉強がすごく出来、

また、絵を描かせても美術の先生を狂喜乱舞させるに充分な才能を持っていた。


その、貧しい時代のベオグラードの少女が、

印刷の発色の悪い浮世絵の画集をたいせつにしていた。

そのなかでもとりわけヤスミンカのお気に入りだった1枚の絵があった。


その少女のお友達の日本人少女が、

もっとリアルな色のその絵の絵葉書を持っていた。

日本からのお土産絵葉書だったのだが、それをプレゼントすると、

ヤスミンカは百年の恋人に出遭えたように喜んだ。


少女の心を捉えて放さないその1枚が、

葛飾北斎の「凱風快晴」 (がいふうかいせい)であった。


「凱」と云う字には、「やわらぐ」と云う意味があり、

「凱風」とは、南からやわらかに吹く初夏の風のことである。

ちょうど、今ごろの季節の、朝の富士なのだろうか。


葛飾北斎富嶽三十六景のうち、

「神奈川沖浪裏」 http://blogs.yahoo.co.jp/tosboe51/7841299.html

と並んで人気のあるのがこの勇壮な赤い富士である。


今ならヘリで飛べばこう見えるのだろうが、

北斎の心は空中を巡り、

画面左下に黒い森を見下ろすかたちに配置し、

目線のまん前に青い空と白い雲を配置した。


やわらかい風がよく見えるではないか。



「私の神様はホクサイ」と言う、ベオグラードの少女の気持ちがよく解る。

富士を神の目線で描いた葛飾北斎である。



この絵で救われる少女が確かに存在したのである。



ベオグラードの少女」の挿話は、「嘘つきアーニャの真っ赤な真実米原万里著より
http://blogs.yahoo.co.jp/tosboe51/38067785.html