遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

メメント/クリストファー・ノーラン

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メメント Memento
出演者
日本公開 2001年11月3日
上映時間 113分


まだまだ2000年代の映画の秀作を追いかけていて(「2000年代を代表する映画25本」)、本日ご紹介は2001年日本公開の「メメント」。

メメントとはラテン語で「記憶」「忘れずに覚えていること」といった意味の言葉。意訳すると「自分がいつか死ぬと言う事を、覚えておきなさい」 「常に死を意識して生きろ」といった戒めの意味ともなる。

主人公のレナードは、妻を殺害されたショックで10分間しか記憶が保てなくなる健忘症になってしまった。レナードは、妻殺しの復讐を果たすために犯人を捜す。健忘症を補うためにメモをする。大事なことはメモを失くしてしまわないように、タトゥーで身体にメモをする。また、関係者の顔を忘れないようにポラロイド写真を撮って、写真の余白にメモを取る。

ストーリーは、犯人探しという一直線のレールの上を転がるような展開である。しかし、映画はその展開を最後尾から先頭に向かって、こま切れで行きつ戻りつしながら観客に見せ始める。レナードの記憶可能時間の10分をトレースするため、15分くらいのシーンが行きつ戻りつ、ストーリーを遡っていく。

はじめは何が始まったのかと訝(いぶ)り、しばらく観ていると行きつ戻りつのぎこちなさから観るのをやめようかと思ってしまう。でももう少し我慢をしていると、パターンが掴めてくる。
1シーンごとに不思議や疑問が示され、その回答が次のシーンで示され、また別の疑問が浮かび上がってくる。そうやって、出発点にさかのぼっていく映画である。

表現手法が映画の特性を生かした斬新なものであるが、表現方法のパターンを掴めるまでじっと我慢強く鑑賞できるかどうかが問題であろう。パターンが掴めるかどうかも問題であろう。
わが国の映画好きの洋画離れに何か原因があるとすれば、こういう作品がどこかで起因しているのかもしれない。(映画好きが我慢強くなくなったことにも、起因しているのだろうけど。)映画作家は常に親切な作品を提供してくれるとは限らない、2000年代の名作を10本ほど観てきてそんな感慨を持った。

妻を殺害された夫レナードを、あの「LAコンフィデンシャル」のガイ・ピアースが演じる。ギラギラしていなくて好い。彼の上半身裸の写真が、「メメント」のテーマ写真になっているが、作品を見るまでは何をあらあのわしているのかよく分からない不思議な写真だった。なので、私は別の印象的なかっこいい画像を探してきた。

ダークナイト」の監督クリストファー・ノーランの、出世作といってよい「メメント」は、表現方法の特異さと、主人公の妻への一直線の純愛とで、とても印象的な作品に仕上がっている。

ネタバレしないようにあえて記せば、「妻と生きる」ために主人公の「記憶」を歪める展開に、彼の心の闇を見るようで、とてもメメントな作品に仕上がっている。