遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

顔に降りかかる雨/桐野夏生

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「顔に降りかかる雨」   講談社文庫(※画像は単行本のもの)
  桐野 夏生 (著)    価格: ¥660 (税込)

 ここ10年ばかり、夏には金沢を訪れている。
 今年も行ってきたばかりである。

 この地の女性は、老いも若きもゆったりとしていて涼やかで、美しいと思う。

 娘が買い物をした「109」のブティックの店員が、とてもチャーミングな人だったようで、別行動をしていた私は、残念な思いをした。

 桐野夏生は、金沢生まれである。もっとも、3歳で金沢を離れているようだから、ネイティブではないのかもしれない。

 「顔に降りかかる雨」は、主人公の女性探偵、村野ミロシリーズの第1作である。
 この作品で、第39回江戸川乱歩賞(1993年)を受賞。

 江戸川乱歩賞は、ミステリーの芥川賞とでも言うべき、新人登竜門である。
 桐野は、40歳を越えて推理作家としてデビューした。

 その後、
  1998年「OUT」が第51回日本推理作家協会賞
  1999年 「柔らかな頬」で第121回直木賞
  2003年 「グロテスク」で第31回泉鏡花文学賞
  2004年 「残虐記」で、第17回柴田錬三郎賞
を、それぞれ受賞。

 また、2004年に、英訳された 「OUT」で、日本人作家として初めてエドガー賞最優秀作品賞にノミネートされ、受賞こそ逃したものの、最終候補にまで残るという快挙を遂げた。

 話題の最新作、「魂萌え !」も10万部を突破する売れ行きだとのことである。

 桐野のキャリアは、以上の如く、ピカピカの五つ星である。

 私は、桐野作品は、村野ミロシリーズのこの「顔に降りかかる雨」「天使に見捨てられた夜」と、ミロの父親が主人公の「水の眠り 灰の夢」を読んだに過ぎない。(ミロシリーズは「ダーク」で完結するようである。)

 「OUT」と「グロテスク」のハードカバーは、例によって、読まれないままに我が家のどこかで長らく眠っている。
 最近文庫化された、「柔らかな頬」を先に読もうかな。

 桐野は、ジュニア小説の書き手から推理作家としてデビューし、いまや推理作家にカテゴライズするのは適切ではない。

 広く社会に目を向け、市井の人間の弱さを、冷たく突き放すことなく、優しいまなざしを投げかけている作家である。

 彼女自身も、小説の登場人物も、どこを切っても、私のようなお気楽さはない。
 しかし、レベルの違いはあるが、彼女の進化は、同じ年代の中年にとっては励みになるのである。