遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

用心棒/黒澤明

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 1960年代の人気TV西部劇「ローハイド」に準主演していた、長身のイケメン俳優。

 アメリカでは鳴かず飛ばずで、やっとイタリア製の西部劇映画で初主演を務める。

 その男優がクリント・イーストウッドで、作品が「荒野の用心棒」であった。
 イーストウッドは、この作品と、次の「夕陽のガンマン」で、ようやく本国アメリカで認識され、スター街道を歩き始め、今日に至っている。

 この「荒野の用心棒」の元ネタが、黒澤明の「用心棒」である。

 イーストウッドは、三船敏郎の役を演じて世に出たのである。


 「マルタの鷹」を書いたダシール・ハメットという、ハードボイルドの元祖というべき作家がいる。

 現実の話に基づいた「赤い収穫」という、作品も遺している。
 「マルタ…」以上にこの「赤い収穫」はエンターテイメント要素がはっきり出ていて、非常に楽しめた。

 この「赤い収穫」を翻案して作られたのが、「用心棒」。(不覚にも、いままでそれにまったく気づかなかった。)
 
 つまり、「赤い収穫」→「用心棒」→「荒野の用心棒」と受け継がれているのである。
 
 私は「荒野の用心棒」→「赤い収穫」→「用心棒」の順で体験した。


 「用心棒」は、本編110分と、「七人の侍」より、ぐっと短くなっており、面白さもぎゅっと凝縮されている。

 オープニングの「犬」が、この物語の行く末を暗示してくれる。
 「風」が見える。
 仲代達也と加東大介が怖いのなんのって。

 しかししかし、何といっても、桑畑三十郎を演じる三船敏郎である。
 殺陣(チャンバラシーン)のリアルさに感心する。
 歩く姿だけでも、かっこいい。

 私は客観的に歩く自分の姿を見て、そのかっこ悪さに情けなくなるのであるが、三船は違う。
 侍はこう歩くというサンプルである。(黒澤は役者の歩き方にも厳しかった。)
 
 走ってもかっこいい。侍はこう走る!侍はこう斬る!

 念のために、ことわっておくが、「日本男児は、サムライたれ!」みたいな思想を私はまったく持ち合わせていない。
 侍を演らすと、三船は素晴らしいと言いたいだけのことである。
 
 能力もなく、精神性にも乏しいくせに、威張っている男ほど、ダサいものはない。そういう輩が黒澤映画を観ても、多分「男、三船、カッコイイ」としか感じないのだろうなあ。

 桑畑三十郎は、このあと「椿三十郎」と名を変えてもう一騒動に関わっていく。

 途半ばであるが、私は「七人の侍」「用心棒」「椿三十郎」「赤ひげ」と黒澤明のDVDを買い揃えている。
 
 私のお宝、日本のお宝。高価だけど、おまけ映像も字幕もついて、国宝級だから仕方がない。