遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

レンタルなんもしない人のなんもしなかった話

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レンタルなんもしない人のなんもしなかった話  晶文社

「レンタルなんもしない人」がサービスをツイッターで開始した2018年6月から2019年2月までのレンタルのされようが、自身の手により一冊の本になった。

なんもしない人をレンタルしても、基本なんにもしてくれない。そこにいるだけのお役目を淡々とこなしてくれる。

レンタル料は無料で、サービス中の依頼者との飲食費や入場料などの実費と国分寺から依頼地までの交通費は依頼者が負担する必要がある。

あちこちにいる「レンタルおじさん」は、時給千円プラス実費で家事手伝いや一日パパや具体的な仕事をこなしてくれるのだが、なんもしない人は、ほぼなにもしてくれないのだ。

このへんてこりんなサービスの一部始終を知ったのが、NHKの「ドキュメンタリ72時間」でだった。なんもしない人は、帽子をかぶったスマートな青年で実年齢(35歳)よりはかなり若く見える。

実際には何にもしないことはなくて、実費さえもらえれば、話し相手になってくれるし、映画や観劇にも付き合ってくれる。また、作った料理を食べてくれるし、飲食店で食事も一緒にしてくれるし、何かの行列に並んでくれるし、自宅に来て寂しさを緩和してくれたり誕生日を祝ってくれたりもするし、一人では行きにくいところや面倒なことをするときにそばにいてくれたりする。

一瞬で済む依頼もあれば、一日中依頼者と一緒の時もある。実費以外のギャラを取らないのは、貯金があるのと奥さんが許してくれているのと、経験を本にするための取材がタダでできるという条件がそろって成り立っているようである。

6か月間でほぼ毎日何らかの依頼があり、複数の掛け持ちがあったり、大阪など地方に呼ばれることもあり、女性が圧倒的に多いが18歳から70代までの年齢層から依頼が来るそうだ。

報酬を目的にしていないので、仕事を引き受ける選択権がなんもしない人にある。ヤバいことは断って、幸せになりそうならどこまでも出かけていく。そんなことならいつだって付き合ってあげる、みたいな依頼がたくさんあって、60代の私でもなんもしない人になれそうな気になってくる。

実に様々な依頼者が、想像できないような具体的な依頼をしてきて面白い。こういうことを「多様性」と呼ばずに何と呼ぶのだろう。なんもしない人はそれらを面白がり、元気をもらったと感謝されることを幸せに感じるのだ。それを本書で追体験した読者もほんわかと幸せになるのである。