遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

この世界の片隅に/片渕須直

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監督・脚本:片渕須直
出演者(声):のん
主題歌:コトリンゴ「みぎてのうた」
製作:2016年

1944年に広島から呉に嫁いだ主人公すずの半生を描いた、長編アニメーション「この世界の片隅に」のご紹介。

冒頭のタイトルバックに流れるのがコトリンゴが歌う「悲しくてやりきれない 」は、何かを暗示しているのか。

すずが呉の北条家に嫁いだのは、すでに戦中だったが、呉の軍港をはるか下に臨む丘の上のすずと嫁ぎ先の生活は意外とのどかに描かれる。

かつて中島京子の「小さなおうち」という戦前から戦時中の物語を読んだが、その時もなんとなくのどかな空気感があった。

軍港のある呉を見下ろす丘陵地は、すべてがゆっくりと流れていて、監督の片渕須直は敢えてその穏やかな空気感を映画に植えつけたかったのか。

時々空襲はあるが戦場になっていない地域、つまり銃後の生活は、いつわりの戦果や操作された少ない情報により、のんびりしたところがある。

それと、声をのん(能年玲奈)が演じる主人公のすずが何とも穏やかで、広島には8月6日に原爆が落ちることを分かって見ている私たちは半ばハラハラしている。しかし、残念ながらのどかな空気は原爆前のある出来事から、突然にシリアスなものに変貌する。

不自由な日常を、主人公のすずだけが経験したわけではない。この国に住むほぼすべての市民が経験した戦時中の日常生活が、すず一家を通してこの映画で忠実に描かれている。

戦後10年は同じような生活が続いたのだけれど、本作は戦時中の日常を70年後の日本にわかりやすくやさしい諧調で持ってきてくれた。

きょうは終戦記念日です 黙祷


コトリンゴ -「 悲しくてやりきれない 」