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安倍政権とはなにか

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ツイッターのタイムラインに流れてきた田中信一郎という政治学者のツイート「安倍政権とはなにか」。ツイッターの文字制約内で20回に渡ってツイートされていて、その分コンパクトに整理されていて素晴らしい。

安倍政権とはなにか
■田中 信一郎 @TanakaShinsyu 
安倍政権について、田中信一郎 @TanakaShinsyu (千葉商科大学特別客員准教授、博士(政治学))による解説です。安倍政権は、自民党の岸派的潮流、官僚の国家重視派、財界の垂直統合派の「総力戦」を展開し、建前の国家方針である個人重視の憲法と、政官財の本音の国家方針である国家重視の路線との戦後の併存状態に、決着をつける「総決算」を企図しているというのが、私の見方です。【安倍政権とはなにか】と題した20回にわたるツイートを整理しました。必要に応じて、ツイートを加えていきます。

【①】安倍政権は、自民党の総力戦を主導。典型は経済政策です。金融緩和による為替・株式市場介入、公共事業・防衛費の増額による大規模財政出動、社会的規制の緩和・縁故優遇による大企業経営者への利益誘導。過去に自民党政権が実施してきた政策を全分野・全力で実施しています。

【②】安倍政権による自民党の総力戦(過去の政策を大規模に再実施)は、経済以外でも展開されています。外交・安全保障では、米国への依存を高め、トランプ政権では米国依存・補完外交をさらに徹底させています。エネルギーでも同様で、再び原発・石炭火力を非常に重視しています。

【③】政権の体制でも、自民党の総力戦を展開しています。政策企画では、官僚と経団連が中心を担い、筆頭秘書官は経産官僚です。主要閣僚・党幹部は、自民党の実力者オールスターで占められています。反主流派の実力者・石破茂氏ですら、政権前半は幹事長・大臣でした。

【④】安倍政権は、1955年の結党以来の自民党岸派的潮流の総決算です。自民党は、経済重視の自由党と自立重視の日本民主党の合同で誕生しました。岸信介率いる岸派が主流だった日本民主党の目標は、自主憲法の制定でした。それが、現在は憲法9条の改正というゴールになっています。

【⑤】安倍政権は、自民党の人材輩出システムでも総決算です。必ずしも祖父・父の政治思想を継いではいませんが、岸信介の孫、吉田茂の孫、河野一郎の孫、鈴木善幸の息子、林義郎の息子、加藤六月の娘婿、世耕弘一の孫、原文兵衛の娘婿など、歴代自民党政治家の血筋が支えています。

【⑥】自民党の総力戦を主導する、自民党岸派の総決算である安倍政権。こうした自民党の政治構造に関心をお持ちの方に、GWお勧めの一冊があります。畏友・土屋彰久氏の『50回選挙をやっても自民党が負けない50の理由』です。「自民党桃太郎論」は秀逸。 

【⑦】かつて、自民党には一定の幅の考え方が存在していましたが、現在は岸派的潮流に「純化」されています。岸田政調会長は?との疑問もあるでしょうが、あくまで安倍政権の認める範囲に過ぎません。なぜならば、政調会長なのに自らの考え方を政権に全く反映できていないからです。

【⑧】安倍政権は、経産省主導政権です。各省庁は官邸・与党への距離を政権ごとに変え、官界であたかも自民党の派閥のような立ち位置になります。現在は、筆頭主流派が経産、第二・三主流派が永久主流派の外務・財務、第四が防衛、第五が警察といったところ。経産官僚を要所に配置。

【⑨】経産省は、かつて商工省、戦時中は軍需省、戦後解体を免れて通産省岸信介は商工省エリート官僚で「満州国」総務部長(官房長官に相当)を務めた後、戦時中は「国務大臣兼軍需次官」を務めました(軍需大臣は東条首相が兼務)。岸は公職追放でも、官僚機構は温存されました。

【⑩】A:国家が第一、B:人々が第一、C:自分が第一。官僚には3タイプあります。軍需省は解体を免れ、Aが温存され、BとCが戦後増えていきました。しかし、現在の経産省は主流派のAと従属派のCの集合体に見え、Bは古賀茂明さんのように放逐されたか、逼塞しているように見えます。

【⑪】タイプA官僚は、経産省だけでなく、各省に存在します。つまり、安倍政権はタイプA(国家が第一)官僚にとっても総力戦なのです。公文書改ざんや文書隠しができるのは、国家第一の安倍政権を支えるという目的に合致すれば、手段は正当化されるべきとの信念があるからです。

【⑫】タイプA官僚の思想は、強烈なエリート主義。政治・行政・経済等、各界のエリートが、国家を主導すべきとの信念。裏返すと、人々やメディア、地方、少数派に対する蔑視があります。問題は、そのバイアスで物事を認識・分析・対処するため、現実との乖離が大きくなることです。

【⑬】安倍政権では、タッグパートナーの経団連を中心とする財界も総力戦を展開しています。財界は、重厚長大・製造・電力・金融など、これまでの日本経済をけん引してきた大企業の経営者で構成されています。近年の収益力低下に対し、政権との関係強化で乗り越えようとしています。

【⑭】財界は、生産から販売までを一括するこれまでの垂直統合型のビジネスモデルを見直すのでなく、垂直統合を実質的に国家レベルまで高めることで、収益力の低下に対応しようとしています。政府では、経産省が司令塔となり、裁量労働制の導入など様々な政策を講じています。

【⑮】財界の方針で、日本経済の直面する3つの構造的課題⑴社会成熟に伴う供給過剰・需要過少の慢性化、⑵人口減少に伴う需要・労働力減少、⑶垂直統合から水平分散への技術変化、に対応できるかは不明です。明確なのは、財界の方針を維持すれば、経営者の責任になりにくいこと。

【⑯】そのため、財界は全力で安倍政権を支え、垂直統合の国家レベルでの強化によって、経済の構造的課題に対処しています。原発・武器輸出に、国家レベルでの垂直統合と財界の総力戦ぶりが顕著に表れています。TPPによる市場拡大も、政権と財界による総力戦の一つです。

【⑰】政権は「財界と縁故」絡みの案件に政策資源を「選択と集中」しています。国家レベルでの垂直統合と地理的な一極集中を同時に進める国家プロジェクトが、リニア新幹線、東京オリパラ、大阪万博です。縁故案件の一部が、加計学園スパコンの疑惑として表れています。

【⑱】政策資源を財界と縁故絡みに集中することは、それらを引きはがされた人々の窮乏化を招いきます。それでも、国家としての紐帯を損なわないよう、道徳教育の強化で精神的結びつきを強めようとしています。財界支援の学校が国家主義的なことや森友学園問題は、その表れです。

【⑲】安倍政権は、自民党(国家・財界・米国の重視)、官僚(国家・官権・社会統制の強化)、財界(垂直統合強化・国家経済への統合)による、低成長経済・国際的影響力の相対的低下・価値観の多様化等の日本社会の変化・閉塞を打ち破ろうと、従来手法での総力戦を展開しています。

【⑳】安倍政権の総力戦を阻むのは憲法です。個人の幸福追求を最優先とする国家方針を規定する憲法と諸制度が、総力戦のリミッターになっています。そこで、憲法という建前の国家方針と、自民党等の本音の国家方針の併存という戦後に決着をつける総決算を、政権は企図しています。

【㉑】安倍政権は「日本は美しくあるべき」という規範をベースに、内外の課題に対処しています。この規範には「力強く成長する経済」のようになんとなく認識されているものもあれば、コアの人たちにのみ共有されているものもあります。いずれにしても、明確な定義はありません。

【㉒】「~であるべき」という規範は、インフレターゲットのように、どうしても現実とのかい離を生みます。そのかい離に対し、安倍政権は現実の課題に合わせて政策等を変えるのでなく、規範に合わせて現実の課題認識を変えようとします。官給靴に合わせて足の大きさを変えるが如く。

【㉓】規範に合わせて現実の課題認識を変える典型例は、労働政策です。生産性向上と過労死減少を目指し、高度プロフェッショナル制度裁量労働制の導入を目指しています。これらを導入すれば、同じ賃金でより多くの付加価値を経営者が手にでき、多くの過労死は普通の死になります。

【㉔】規範に合わせて現実の課題認識を変えようとしても、物理的・資金的・時間的・肉体的等の限界があります。政権は、それを「精神力」で超越しようとしています。国家や公のために尽くす「美しい精神力・道徳」があれば限界は超えられ、犠牲は自己責任と認識されるとの考えです。

【㉕】そのため、安倍政権は「美しい精神力・道徳」を涵養するため、様々な文化的な力を用います。「親学」普及や道徳教育、メディア介入、ヘイト黙認、科研費攻撃など、それらは政権自ら行うものや政権支持者が行うものまで様々。安倍政権はまさに「精神総動員」を展開しています。

【㉖】安倍政権の「精神総動員」に対し、リミッターとなる憲法や諸制度、国、野党など異論を述べる人々、あるべき属性に含まれない人々は、政権や支持者からすべて「反日勢力」と認識されます。特に「美しい日本」を「汚す」ような事実を大切にする人々は、非難の対象となります。

【㉗】安倍政権の「美しい日本」という規範は、明確な定義がなく、時々で変化します。しかし、変化しない規範もあります。「現在の上位者(多くは権威ある年配の男性)に迷惑をかけてはいけない」という規範です。守れば、良しなにしてくれることも、切り捨てられることもあります。

【㉘】安倍政権では、経済低迷や人口減少、国力の相対的低下等の国難に対処するため、自民党・官僚・財界が総力戦を展開しています。目標は、本音の彼らの国家方針と、建前の国家方針の憲法との併存状態を解消する総決算です。あるべき規範と現実との差を埋めるのが精神総動員です。

【㉙】安倍政権は、総決算を成し遂げるために、総力戦を展開し、精神総動員をかけています。その過程で、違法性や道義性を問われることがあっても、看過されるべきで、法や批判を問題と考えます。むしろ「英雄色を好む」的なことは、支持者から好感を得られる傾向もあります。

【㉚】安倍政権に対し、日本に関係するすべての人々は、無関心は可能でも、無関係であることはできません。なぜならば、憲法という建前、かつそれなりに法制度が整備されてきた国家方針の全面的転換を最終目標としているからです。無関心であっても、政権から人々に関与してきます。