遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

その犬の歩むところ/ボストン・テラン

イメージ 1

その犬の歩むところ  ボストン テラン (著)  田口 俊樹 (翻訳) 文春文庫

今現在、アメリカの西海岸カリフォルニアでは大変な山火事が続いていて、東京23区よりも広い面積を延焼し続け、死者は23人に達しているという。
夏には、東南部海岸フロリダでは、メキシコ湾から大きなハリケーンがいくつか上陸し、大きな被害を出したことも記憶に新しい。

本書「その犬の歩むところ」は、主人公たちと、ギヴという名の一匹の犬のアメリカ大陸行ったり来たりの変則横断物語である。そのなかで主人公たちは、大きなハリケーンや山火事と遭遇することになる。

ギヴがどんな犬種なのかはっきり書いていなかったように思うが、私はこの表紙の写真のような腰高の耳の折れた大型犬をイメージして読み進めた。

物語内でギヴのパートナーは、訳あって入れ替わっていく。
ハンガリーから移民した薄幸のモーテルを経営する中年女性。悪魔のような父親に育てられたミュージシャン志望の十代の兄と弟。その弟がギヴを散歩中に出会って恋人になったタトゥーアーティスト。イラクから瀕死の重傷で帰還した若い元軍曹。その軍曹の戦死した戦友の脳性麻痺の弟。

そして、主人公たちとギヴにアメリカの大自然や大事件の厄災が降りかかる。911のNY同時多発テロイラク戦争、ハリケーンカトリーナ、架空の西海岸での山火事。そして、過去の大きな痛み、ケネディ大統領の暗殺やベトナム戦争からのショックを引きずる人たちが、主人公たちの周辺に配置される。

主人公たちの挫折や蹉跌や悲劇からの、再生や覚醒や贖罪(罪滅ぼし)や回復が描かれるが、そのリカバリーのきっかけとなるのがギヴと言う一匹の愛すべき犬なのである。

そして特筆すべきは、何よりも読者がギヴに癒しを授けられるのである。ギヴのような犬と余生を暮らしたいと、心底思ったしだいである。