私が生涯で最初に画家として認識した雪舟。それは、かなり幼い頃に母親から聞いた「涙で描いた鼠」の世にも有名なエピソードを通じてだった。
【涙で描いた鼠】
宝福寺に入った幼い日の雪舟が、絵ばかり好んで経を読もうとしないので、寺の僧は雪舟を仏堂の柱にしばりつけてしまいました。しかし床に落ちた涙を足の親指につけ、床に鼠を描いたところ、僧はその見事さに感心し、雪舟が絵を描くことを許しました。
思いのほか小さい作品だった。写真や映像などで見た感じの、秋冬の景色の広がり方が、大作のイメージとなっていたからだろう。中国渡来の画法がいかんなく発揮されている。
「秋冬山水図」の「冬景」の特長は、なんといっても中央に描かれた天に続くスピード感のある一本の垂直線だろう。
私は枝葉のない立ち枯れた老木かと思っていたが、崖の岩肌のエッジを象徴的に描いているようだ。また、下から筆を一気に上方に跳ね上げるように描いた垂直線かと思っていたが、それではこのような線は引けないとも思う、合理的でない。
まったく素人はいい加減なのだが、観賞する気持ちを採点されることはないので、心が自由になるのがありがたいことだ。
国宝展では、雪舟のすべての国宝指定作品(6点)が一同に会している。同じ展示ブースに6点がそろっていて、何とも豪奢で贅沢で大変な絶景なのである。
【雪舟の国宝指定作品】(10/23日まで展示、ただし●印は10/28まで展示予定)
●秋冬山水図 2幅(東京国立博物館)
四季山水図巻(山水長巻)1巻(毛利博物館、文明18年(1486年))
山水図(破墨山水図)(東京国立博物館、明応4年(1495年))
●慧可断臂図(愛知県・斉年寺、明応5年(1496年))
山水図 牧松周省・了庵桂悟賛(個人蔵)