遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

大橋巨泉の遺言

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大橋巨泉さんが亡くなった。私より20歳ばかり年長だから、ほぼ父親世代に当たる。

父親世代のリベラルなおじさんたちを、リアルタイムで見て育ってきた。
永六輔を筆頭に、その他順不同で大橋巨泉前田武彦小沢昭一野坂昭如青島幸男、前田憲夫、愛川欣也などがその一群に当たる。戦争で地獄の暮らしを体験し、その後の人生をはじかれたように自由に過ごした世代の一群である。

大橋巨泉と出会わなくとも、ジャズや麻雀や競馬や釣りやゴルフが好きだったかも知れないが、中高生の頃に見た「11PM」の私のライフスタイルへの影響は計り知れないと思っている。ああ大人のたしなみとは、こういう遊びをすることなんだと、その後どれにも深くかかわることになる。麻雀とゴルフはほとんどやらなくなったが、今もジャズ鑑賞と釣りと競馬は、たしなむ程度に継続している。

巨泉は、時に傲慢で頑固なところがあるが、彼の司会する番組はどれも楽しめたことが不思議である。「11PM」「お笑い頭の体操」「ビートポップス」「クイズダービー」「世界まるごとHOWマッチ」「ゲバゲバ90分」などなど、どれも楽しい番組だった。

ひとつ毛色の変わった番組「巨泉のこんなモノいらない!?」は、巨泉の別の顔を見ることができた。一言で言うなら痛烈な社会批判番組だった。
もともと巨泉は、「11PM」の月曜日枠を社会派番組として時々制作していたので、その流れをくむのが「巨泉のこんなモノいらない!?」であった。私は社会派のシリアスな巨泉がもっとも好きだった。

3度目かのガンにかかり、週刊現代に遺言ともいうべき記事を寄稿したという。
「最後かもしれぬお願いです。野党に投票して下さい。安倍晋三の野望は恐ろしい。日本を戦争のできる国にしたいのだ。しかし彼は銃を取らない。銃をもって戦場におもむくのは貴方の子孫です」

素晴らしいメッセージだった。彼は反体制から一歩も踏み外すことなく大往生した。誰にも媚びないからこそ傲慢で頑固に見えたのだと思う。「安倍政権!?そんなものいらない!?」なのである。謹んでご冥福を祈りたい。