遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

本能寺切/藤原行成

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「王義之から空海へ」展覧会から、三跡の藤原行成(ふじわらのゆきなり「コウゼイ」972-1028)のご紹介。
 
我が国の書の大家は、
日本三筆=嵯峨天皇空海橘逸勢(たちばなのはやなり)と、
日本三跡(三蹟)=小野道風藤原佐理藤原行成
 
三筆(さんぴつ)が、中国の影響を受けた書であるのに対して、三跡(さんせき)は、豊満で柔らかな和風の書体で知られる。サラブレッドは「三大始祖」という3頭の馬の血統を引き継ぐものに限られる。日本の書も三跡が三大始祖と私は思う。
 
画像は私が目にした展示書跡で、「本能寺切(ほんのうじぎれ)」。本能寺に伝わる行成の手になる国宝である。菅原道真たちの書を写した習作のようなものだった。
 
作品名の「切」とは、今回の展覧会で知ったのだが、元の作品を分割した断簡のこと。元は美しい紙(料紙)に書かれた「古筆(こひつ)」で、それらを切断したものが今に伝わっている。今回の展覧会にも高野山に伝わった「高野切」、昭和3年に分割されたのでその名のついた「昭和切」などが展示されていた。展示されていたものの多くは、ひらがなの小品だった。
 
行成は小野道風の書を尊重し、彼の創始した和様を継承したようで、三跡の師匠が三跡なのである。
 
行成は穏やかでなめらかでふくよかで優美な筆致を持ち、その安定感に心が和む。彼は、性格も冷静で温厚な人格者のようで、またすぐれた官僚でもあったらしく、人柄の良さが書跡に現れているのかもしれない。
かつて行成の「白氏詩巻(はくししかん)」という国宝を、わが記事で紹介したことがある。以下がその書跡、東京国立博物館蔵の国宝である。
 
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