遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

牡蠣工場/想田和弘

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牡蠣工場
監督・製作・撮影・編集:想田和弘
製作:柏木規与子
製作年 2015年 上映時間 145分


現在、京都シネマで上映中の「牡蠣工場(かきこうば)」を見てきた。想田和弘監督自ら、カメラマンを務め編集までして作り上げた「観察映画」を観察してきた。

舞台となったのは、瀬戸内海の岡山県牛窓にある小さな牡蠣工場。

画像いちばん上のような1m四方の網かごに、毎朝3杯の牡蠣が工場に運ばれてくる。工場のあるじが、沖のイカダで養殖している牡蠣が運ばれてくる。牡蠣が水くらいの重さなら毎朝3トンほど運ばれてくる。

それを、工場内で人々が殻をこじ開けむき身を取り出し漁協に出荷する。真ん中の画像がその工場内のようす。11月から5月までの約6か月は、7時から夕方4時までそれを繰り返す。今後は牡蠣を、あだやおろそかに食すまいと思わせる大変な作業である。私は手をけがしてすぐに退場させられると思う。

牛窓にある港の、隣り合った2つの牡蠣工場の経営者とその家族と従業員(画像下の出稼ぎの中国人もいる)を、想田はじっと観察する。観察するだけでなく、人々と話をし交流する。工場のあるじは前向きで、奥さんは元気で美人で明るくて、従業員は朗らかで、中国人は質素でまじめで、カメラマンも含めて善人ばかりが登場するほのぼの感がよろしい。瀬戸内海の美しい景色も飽きない。編集で頑張ったんだろう。

私の前列に、おひとりの中年の外国人女性。音楽も字幕もナレーションもない作品だから、そういう人の鑑賞もありかと思っていたら、想田と工場の奥さんとの会話にくすっと笑っていたので、日本語の分かるお方だった。想田は字幕を入れずに海外上映しているようだ。海外でこの世界観がどれだけ受け入れられるのかなとは思うが、かつてこの国のどこにでもあった平凡な日常が、いまやなぜかとても新鮮であった。登場人物たちの、素朴で前向きな清い生き方が新鮮に感じるのだと思う。

お近くに作品がやってきたら、ぜひご覧になられたい。