遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

黒猫・黄金虫/エドガー・アラン・ポー

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黒猫・黄金虫  エドガー・アラン・ポー 刈田元司訳 旺文社文庫

BS-TBSの「林修・世界の名著」という番組で、又吉尚樹と芥川賞を同時受賞した羽田圭介が、エドガー・アラン・ポー(1809 - 1849)の「盗まれた手紙」を名著に挙げていた。この番組はゲストが選んだ1冊の名著について、ゲストと林修が視聴者にその素晴らしさを語ってくれる。30分の短い番組だが、私が読んだことのない多くの世界の名著を、知的なゲストが深くたっぷりとさまざまな角度で紹介してくれる、素晴らしい番組である。

さて、「盗まれた手紙」は、オーギュスト・デュパンが登場するシリーズである。
羽田圭介は、ミステリー小説には、文学のすべてが詰まっていて、装飾的な描写はミステリー要素を抜きにしても楽しめる、と熱く語った。

すぐれたミステリーは、単に犯人を捜したり事件や謎を解明するというプロット(話の筋)から外れた無駄な部分が、知的で面白いと羽田と林は力説する。若いころからミステリーに親しんできた私は「うんうん」と、うなずける説話であった。
その後、私はiBooksの無料の「ポー全集」をダウンロードして、「盗まれた手紙」を62歳にして初めて楽しんだ。 

もう50年も前になるが、中学生だった私に、授業中にエドガー・アラン・ポーの「黒猫」を読んでくれた教師がいた。「黒猫」は、1960年代の田舎の中学生が戦慄し驚愕するに十分な話であったが、同時にポーという作家の強烈な印象が心に植えつけられた。

それから少したって、「黒猫」が入ったポーの文庫本(画像の旺文社文庫)を購入した。これが、私のミステリーデビューであった。
その文庫には6篇の小説が収められていた。
  黒猫
  赤死病の仮面
  アッシャー家の崩壊
  モルグ街の殺人
  黄金虫
  ウィリアム・ウィルソン

「モルグ街の殺人」(1841年)は、史上最初の推理小説とされている。この小説でオーギュスト・デュパンがデビューした。当然に、デュパンが世界最初の名探偵である。

この短編集の中で、私の一番のお気に入りは「黄金虫(こがねむし)」である。
謎解き風の暗号小説+冒険小説というスタイルの楽しい話で、「ドラゴン・クエストⅠ」や「ショーシャンクの空に」などにもよく似た古典的な設定がある。堀井雄二少年もスティーブン・キング少年も、ポーの「黄金虫」に夢中になったのではなかろうか。

ポーに続く次世代の、コナン・ドイル(1859-1930)もポーの影響を受けているし、他でもない江戸川乱歩(1894-1965)は、そのペンネームにまですっかり影響を受けている。

少年私はこの本で、推理小説に目覚め、コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズの冒険」でミステリーにはまった。

 

エドガー・アラン・ポー (1809-49)
 アメリカでアイルランド系移民の子孫として生まれる。
 1841年に推理・探偵小説の草分けである「モルグ街の殺人事件」を発表する。これと他3篇で探偵オーギュスト・デュパンを創造。
 彼の作品が1854-55年にかけてボードレールによってフランス語訳され紹介されたことから1860年代にガボリオのルコック探偵作品が生まれる。(同じ頃イギリスでもコリンズの「月長石」)。
 他に恐怖・幻想小説のジャンルである「黒猫」「アッシャー家の崩壊」なども有名。