遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

ゼロの焦点/松本清張

イメージ 1


NHKBSで、「シリーズ・Jミステリーはここから始まった! 第1回「ただの“社会派”じゃない!~松本清張ゼロの焦点”」を視聴。出演が笠井潔小森陽一、橋本麻里、中村文則、華恵。読書についてはプロというべき5人が、松本清張の「ゼロの焦点」について語る番組だった。

私は大昔に読んだ作品であるが、5人が語るほど深く広く読んでいないことに気づかされた。読後に彼らのように立派な論考を表現できなくてはと思いもしたが、まあある程度深く広く楽しく読めばいいかなとも思った。

従軍慰安婦や沖縄基地の問題」は、58年発表の「ゼロの焦点」がはらんでいる戦後の問題が現在に続いているとの笠井の指摘に一同うなずく、というシーンを紹介するだけで、この番組が教養溢れる良い番組だったことを伝えられると思う。

それにしても、元学生運動家の作家、九条の会の発起人の国文学者、高橋源一郎の長女の美術ライター、芥川賞大江健三郎賞作家、東京芸大卒のエッセイストという組み合わせが、いまのNHKらしくなくて素晴らしい。

ゼロの焦点」は、江戸川乱歩に乞われて清張が雑誌「宝石」に連載した。それは1952年に芥川賞(直木賞ではない)を受賞した清張が、社会派ミステリー作家として「点と線」を表した翌年のことであった。この小説を読めば、ミステリーは単なる犯人捜し小説などという考えは払しょくされる。

本作は、主人公の3人の女が背負う戦争の傷跡が悲しい。その女たちを描いくため、映画化やテレビドラマ化も数多く、同時代の気鋭の女優がそれぞれの役を務めている。私は、野村芳太郎監督の「ゼロの焦点」を見たくなった次第である。

未読の方には、NHKの番組タイトル、「ただの社会派じゃない!」をぜひ体験していただきたい。