遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

幸福について/ショーペンハウアー

イメージ 1

幸福について―人生論― 

ショーペンハウアー『幸福について』、突然のブレイク
 ショーペンハウアーショーペンハウエル)『幸福について―人生論―』は、50年以上に及ぶ新潮文庫のロングセラーのひとつですが、ここのところ目立った動きもなく静かに読み続けられてきた古典でした。ところがこの3月上旬だけで早くも32,000部増刷と、突然の“ブレイク”が起こりました。

きっかけは2月29日、テレビ東京の番組「ワールドビジネスサテライト」の「スミスの本棚」でした。出演した作家・劇作家の本谷有希子さんが「何度も繰り返し読んで、救われた」と紹介。これを受け、放送直後から本書はアマゾンの文庫ランキングで一気にトップに。一時的に品切れ状態となるほどの急展開でした。

本書は、厭世的な哲学者として知られるショーペンハウアーによる異色の幸福論です。「幸福を得るために最も大事なのは、われわれ自身の内面のあり方」。
この仏教的とも言える分かりやすいメッセージが、暗いニュース続きの昨今、日本人の心にじわっと沁みつつあるようです。
(新潮フラッシュニュース2012年03月15日より)


私のブログタイトルの下の一言メッセージは、ゲーテの詩の一部分「 形を具えて、栄えゆく生命は、 時にも、力にも、砕かれはしない」というもの。これは内的生活のすすめで、精神的生活が強固ならば、魂は時間的な枯渇や外からの圧力に左右されない、ことを表している。このゲーテの一節は、ショーペンハウアーの「幸福について」で紹介されていたものである。

ショーペンハウアーが定義した3つの「人間の根本規定」と「人間の能力」の分類が、本書の肝だ。

人間の三つの根本規定
 1.人のあり方     人品、人柄、人物。道徳的性格、知性。
 2.人の有するもの   あらゆる意味での所有物。
 3.人の印象の与え方  名誉と位階と名声。

人間の三つの能力
 1.再生力の享楽    飲食、消化、休息、睡眠。
 2.刺激感性の享楽   運動競技、狩猟、闘争や戦争。
 3.精神的感受性の享楽 思考、思惟、鑑賞、詩作、絵画、彫刻、音楽、
            学習、読書、瞑想、発見、哲学的思索

そして、真の幸福は、「人のあり方」「精神的感受性の享楽」から成り立つという。精神的感受性の享楽は、人間だけに与えられた特権であるという。

そして、精神的感受性は、自分の心の内なるもので外的なものに邪魔されないから幸福なのであるという。
虚栄心を満たすための、富や地位や権威は、他人が(外的に)ちやほやするだけのものでくだらないという。

精神的感受性の享楽が身についていないと、人は退屈になり飲んだり食べたりスポーツやギャンブルや嗜好品に享楽することになる。凡人は官能的享楽、家庭生活の団欒、低級な社交、卑俗な遊楽にたよる生活から抜けきれないと、耳の痛いことを言う。

人間は誰もが同じ愚者である。愚者の中でも幸福な人はどんな人かといえば、客観的な半面を大事に生きるのではなく、主観的な半面を大事に生きる人だという。そして、心の朗らかさを持って心に蓄えた富は、何ものにも代えがたい幸福をもたらしてくれるという。

英語で「楽しむ」ことを「自分を楽しむ」というのはきわめて適切な表現だ。
he enjoys himself at Paris 「彼はパリで自分を楽しむ」と言い、「彼はパリを楽しむ」とは言わない。

ため息が出る箴言が、引用なしでショーペンハウアー自身の言葉で語られる。
私は60歳より少し前に本書を読んだ。幸いにも、自分なりにある程度の「精神的感受性の享楽」を受け入れられる生活をしていたので、その漠然とした幸福を本書により確かなものとして認識できた。

1958年に翻訳されたこの哲学書は、慣れるまではいささか読みにくいが、しかし、何度も読み返す価値がある。
それこそが、精神的感受性の享楽という「幸福」なのだから。