遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

百田尚樹『殉愛』の真実/宝島社

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やしきたかじんとその最後の妻さくらの闘病生活を描いた『殉愛』(幻冬舎)。著者は、百田尚樹
「かつてない純愛ノンフィクション」とうたわれた同書は、32万部に達するベストセラーとなった。しかし、ノンフィクションにもかかわらず取材を敢行せず、一度も会ったことのないたかじんの長女を悪役に仕立てた内容に、ネットでは騒ぎになり、長女当人から出版差し止めの提訴が行われた。

百田尚樹と家鋪さくらによって嘘で固められ美化された事故本「殉愛」の一行一行を、講談社ノンフィクション賞作家の二人角岡伸彦西岡研介をはじめ、たかじん実弟家鋪渡と宝島社の取材班が検証していく。

私は芸能ゴシップ記事は、あまり興味がない。また、関西で絶大なる人気を誇るやしきたかじんは、毒舌は面白いが歌には興味ないので、彼は私の中では口の悪い話の面白い芸能人といった存在であった。しかし、たかじんが亡くなってから、未亡人の銭ゲバ騒動に百田尚樹が「最後の妻の純愛物語」として絡んできてから少し興味を持っていた。

そして猛暑の中、本書「百田尚樹『殉愛』の真実」に出会って、百田と家鋪さくらの「お寒い」嘘物語を緑陰読書した。金のためには、無実の人を貶めたり排除したりする人の道を外れたさくらには、腹が立って熱く(暑く)なるが、そのさくらにまんまと嵌められて「殉愛」を執筆した百田尚樹が、実にみじめに見えてくる。この事件は、ミステリーほど複雑なカラクリはないものの、ノンフィクションに長けた執筆陣の調査や検証で、ひとつずつ嘘がはがされていく過程は痛快で、涼しくなってくる。

さくらの利権を一手に手中におさめようとする野心は、少しずつ成功していくかに見えた。さくらはその仕上げとして、百田に「殉愛」を書かせたのだが、そこから転落が始まった。きっと銭ゲバさくらの印税の取り分も契約済みだったのだろう。さくらの純愛物語は、この本によって化けの皮がはがれていった。そして百田も、さくらに利用されて、自らの墓穴も掘ってしまった。

エピローグでは、安倍政権に利用され、さくらという利権と遺産めあての女と幻冬舎に利用された、作家「百田尚樹」の終わりの始まりが描かれているが、さくらによる一番の被害者は百田だったような気がする。政権に利用されさくらや出版社に利用されなかったら、登りつめた人気作家のままで一生を終えられたかもしれない百田。「沖縄2紙はつぶせ」などの発言と「殉愛」の上梓は、痛恨の極みであった。

ノンフィクションとは、本書のようなものなのだよ、百田君。

百田尚樹『殉愛』の真実
 著者 角岡 伸彦, 西岡 研介, 家鋪 渡, 宝島「殉愛騒動」取材班

目次
まえがき
プロローグ 殉愛騒動のてん末 百田尚樹の暴走
第1章 『殉愛』の嘘 元マネージャーが語った「最後の741日」
第2章 『殉愛』に貶められて たかじん前妻の述懐
第3章 『殉愛』が汚した〝歌手やしきたかじん
第4章 後妻「さくら」という生き方 前編
第5章 後妻「さくら」という生き方 後編
第6章 たかじんのハイエナ 関西テレビ界の罪
第7章 週刊誌メディアの作家タブー
エピローグ 作家「百田尚樹」終わりの始まり
「殉愛騒動」年譜